イギリス

2024年2月26日 (月)

The Motive and the CueとMy Neighbour Totoro

まつこです。

短いイギリス出張を終えて帰国しました。14時間のフライトと9時間の時差。時差ぼけが治らないうちに、また時差ぼけです。

今回ロンドンで見た芝居は2本だけ。夜の開演時間は、日本の明け方にあたり、途中、猛烈な眠気と戦いながらの観劇です。なので怪しい部分もあるのですが・・・。

まずはナショナル・シアターからウェスト・エンドに移動したThe Motive and the Cue。演出はサム・メンデスです。

5449

[写真はGuardianから借りました]

ジョン・ギールグッドが演出し、リチャード・バートンが主演したブロードウェイの『ハムレット』上演までのリハーサル期間、二人の意見のすれ違いや衝突を経て、新たなハムレット像を作り出していくプロセスを描いています。ギールグッドの自己韜晦とバートンの自己顕示欲の裏にはそれぞれの複雑な心理的屈折が隠れていて、それが次第に見えてきます。ギールグッドは同性愛、ギールグッドは飲んだくれの父との関係、それぞれスターとしての華やかなカリスマの陰の個人的な苦しみを、目をそらさずに直視したとき、二人のスターの力が融合する。

こう書くと複雑な心理劇のようですが、お色気撒き散らすエリザベス・テイラーとか、クセのある脇役たちが絡んで、軽妙な会話で劇は進行します。その合間にギールグッドとバートンの語る『ハムレット』のセリフが、古い録音で聴いた本物とそっくりの口調で挟まれます。

場面展開の合間にノエル・カワードの洒落た歌声が流れる演出で、全体が20世紀イギリス演劇へのオマージュのようになっています。カワード、ギールグッド、バートンとそろえばイギリス演劇の黄金期と言っても良いでしょう。なめらかで洒落たカワードの歌声が流れると、劇場全体がセピア色の雰囲気に包まれます。しかも会場がノエル・カワード劇場。終わるや否やいっせいに立ち上がり拍手喝采するイギリス人観客たちに挟まれて、これは「イギリス人のためのイギリス演劇を見た」という印象を強めました。

もう一本見たのは、アニメ『隣のトトロ』をRSCが舞台化したMy Neighbour Totoroです。

5000

[こちらの写真もGuardianから拝借]

豊かな自然にふれて、子供の想像力が人知を超えるものを見出していく、というテーマは文化の違いを超えて共有しやすいのでしょう。敗戦後それほど経ていない日本の田舎という舞台設定に、それほど違和感を感じずに劇場を埋め尽くした観客全体が、美しく楽しい舞台を大いに楽しんでいました。

巨大なトトロや小動物たちは、人形で描かれますが、それを動かす人形遣いたちは人形浄瑠璃の黒衣の扮装をしています。人形浄瑠璃や歌舞伎では黒衣は見えない前提になっていますが、このMy Neighbour Totoroの黒衣たちは時折、顔も見せ、その存在がむしろ強調されています。無数の黒衣たちがいっせいに体を揺らすことで、動植物の自然の大きな力が表現されるのです。人間たちは常に自然という黒衣に囲まれているんだと認識させる演出でした。

これら黒衣たちも含め、舞台の上はほぼ全員が東洋人。美しく流れる久石譲の音楽を演奏しているのも東洋人(日本人?)ミュージシャンたち。さらに劇中歌は半分以上、日本語で歌われます。RSCのステージが東洋人で埋め尽くされ、日本語が流れている。そのことを誰も驚かずに(いや、私は驚きましたが)、年齢も人種も入り混じった観客たちがみんなそろって楽しんでいる。他人種や他文化から吸収できるものを吸収し、自国の利益へと変換していく力が、イギリスという国のしたたかな開放性ですが、My Neighbour Totoroもその一端と思えました。

古い伝統へのオマージュと、新たな開放性と、ふたつの異なった面を見た二晩の観劇でした。

 

2024年2月21日 (水)

カーディフ

まつこです。

今回の出張先はこちら。

Img_2434

[ウェールズ国旗がたなびくカーディフ城]

ロンドンから列車で2時間ほど西に、セヴァーン川を渡ればそこはウェールズ。首都とはいうもののカーディフはコンパクトで落ち着いた地方都市です。その中心にあるカーディフ城に行けば、この街の歴史がわかります。

まず1世紀にローマ人がやってきて城壁を作り・・・

Img_2441

[ローマ人の作った城壁。今は建物の地下になっています]

次に12世紀にはノルマン人が要塞を作り・・・

Img_2438

[ノルマン人の要塞の見張り台]

19世紀には炭鉱で富を手にした貴族が館を作り・・・

Img_2439

[19世紀に流行したネオ・ゴシック様式]

今日ではそこが市の観光の中心になっています。

入場料は大人14ポンド。支払おうとしたときに目にはいった"Concession £12"という文字。もしやと思い、「60歳超えているんでconcessionではないでしょうか」と尋ねたところ、「えー、見えないわー!」と受付の女性に驚かれたけど、IDも見せずに12ポンドに割引してもらいました。受付の女性は「私も来年、60歳なの。がんばらないと」と言っていました(笑)。

4年半ぶりのイギリスで、生まれて初めてconcessionを利用して、気分は微妙・・・。ま、年寄り扱いしてもらって、2ポンド安くなればそれで良いかな。いや、たった2ポンドのために、自ら年寄りだと宣言するかなあ。ちょっと悩むところです。

2024年2月17日 (土)

春は西風にのって

まつこです。

久々の海外旅行なので、時差ぼけや体力低下を懸念して、到着の翌日は予定を入れず完全オフの日にしておきました。60代、女一人の海外出張ですから、できるだけ慎重に。

Img_2390

[アルバート公の像も春の光を浴びて輝いています]

朝食を終えたところで、朝の散歩。明け方の雨が上がり、気温もマイルドで、散歩日和です。宿泊先は30代の頃からずっと、サウスケンジントン界隈。ケンジントン・ガーデンのクィーンズ・ゲートからもほど近い界隈です。今朝もトコトコと歩いて、クィーンズ・ゲートからケンジントン・ガーデンへ。

「クィーン」と言えば、今回の羽田で飛行機に搭乗する際、ボーディング・ブリッジで隣を長い銀髪の老人が歩いていました・・・「おおー、ブラインアン・メイだ!」 当然ながらブライアンはファースト・クラスへ。ほんの数秒でしたが、ブライアン・メイと至近距離で歩けるなんて(しかも他には誰もいなかった)、幸先の良い旅の始まり。ヒースローで降りた時も、見かけました。空港内カートに乗り込んで去って行きました。

Img_2394

[ハイド・パークのサーペンタインの池]

ロンドンはいつ来ても人でいっぱい。世界中から観光やビジネスで人が押し寄せていますが、広々としたケンジントン・ガーデンやハイド・パークはそんな喧騒からしばし逃れられるオアシスです。

Img_2393

[水仙の黄色が鮮やか]

2月とは思えないマイルドな暖かさと、朝のニュースで繰り返し伝えていました。イギリスでは「西風」が春の季語ですが、天気予報を見ていたら、確かに大西洋方向からの風向きになっていました。

Img_2398

[スノー・ドロップが可愛らしい]

『BBC Breakfast』を見たのも4年半ぶりですが、プレゼンターは変わっておらず、今朝はチャーリーとナガ。チャーリーは4年分、しっかり老けて、その分「チャラい」感じが薄れいて、かえって好印象。しかしコロナ禍を経て変化もありました。ちょっとくらいお買い物しようかなと思ったのですが、アクセサリーのLinks of Londonは閉業、バッグや小物類のLulu Guinnessや婦人服のNicole Farhiはオンライン・ショップだけになっていました。昔からのお気に入りブリティッシュ・ブランドが消えて、ちょっと寂しい・・・。

2024年2月16日 (金)

ロンドン

まつこです。

久しぶりのロンドン! 今回は出張で、短いイギリス滞在です。

Img_23831

[いつも変わらない街並み]

海外に出たのも2019年の夏以来、初めてです。でもあまり変わっていないサウス・ケンジントンの街並みを見て、少しずつロンドンにいる感覚が戻りつつあります。人々の歩く速さ、街に漂うタバコのかすかな香り、いろんな言語が混じって聞こえてくる人混み・・・ああ、この空気感だったなあと思い出しました。

ロシアのウクライナ侵攻の影響で、飛行ルートも異なっていました。ベーリング海峡から北極海を横断して、14時間のフライト。ようやくヒースローに降り立つと、予想外の暖かさでした。ハイドパークとケンジントン・ガーデンの間の道を走るタクシーの窓から、スノー・ドロップの白い花がたくさん見えました。

ロンドンでも、季節は冬から早春へと移りつつあるようです。

2019年8月23日 (金)

ケンブリッジできっくら腰

まつこです。

やってしまいました。ぎっくり腰・・・。動けないほどひどくはないので、うめぞうからは「きっくら腰」と呼ばれています。

Photo_20190823203601

[サーモンとアボカドのオードブルは私が用意しました]

優雅なパーティのように見えますが、私は腰痛でおっかなびっくり座っています。

しかし腰痛ごときでめげてはいられない。この翌日からヴァカンスに出発です。

向かった先はこちら・・・

Img_2792

[ため息が出るほど美しい]

映画で見て一度来てみたかったところです。この湖の景色を眺めながらのんびりバカンスします。

2019年8月20日 (火)

ケンブリッジ囲碁クラブ

まつこです。

囲碁は世界中で楽しまれているゲームです。ケンブリッジにも卒業生や地元の人たちがやっている囲碁クラブがあり、うめぞうと二人で行ってみました。あまりお客さんがいない、さえないパブが会場です。日曜の夜に7、8名の若者が参加していました。

Photo_20190820053601

[この青年は2級と言っていましたが、日本なら3段くらいの実力]

このケンブリッジ囲碁クラブのレベルが非常に高くて度肝を抜かれました。3局ずつ対局したのですが、うめぞうはまさかの1勝2敗、私は1勝1敗1持碁(ドロー)でした。

うめぞうは4段、私は2級と自己申告したのですが、こちらの1級は日本なら4段くらいの力はあります。彼らはネット碁の国際基準の段級を使っているようです。私たちの段級はいちおう日本棋院に認定してもらっているのですが、ネット上のグローバルの基準と日本のローカルな基準の間にはだいぶ差があることを実感しました。

Photo_20190820054401

[うめぞう、この対局はかなり追いつめられながらもなんとか辛勝]

写真に写っている青年は2級というので、私が最初に互先(ハンディがゼロ)でやったのですが、ぜんぜん歯が立ちませんでした。そのあとうめぞうが2子のハンディをつけて対局し、うめぞうは手こずりながらもなんとか僅差で勝ちました。うめぞうの実感では日本でなら3段は確実な実力だとのこと。

彼はGoogle Deep Mindが開発した囲碁プログラムの「アルファ碁」のニュースで興味を持って囲碁をやり始め、たった1年でここまで強くなったんだそうです。そりゃ、すごい!もの静かな青年でしたが、私が撮った写真をメールで送ったら、すぐさま礼儀正しいお礼の返信メールがありました。また来年、対局しましょう、と言ってもらいましたが、1年後には彼はさらに強くなっていることでしょう。

言葉や国籍の違いを超えて、こんな交流ができるところも囲碁の面白さのひとつです。

 

 

2019年8月19日 (月)

とてもイギリス的な

まつこです。

きれいに晴れ渡った日曜日の朝、「さあ、みんなでウォーキングに行きましょう」とジュディに誘われました。

日差しのまぶしさにサングラスまでして歩き始めたのですが・・・

Img_2719

[ケム川に雨が降る]

歩き始めて5分。あれ、空模様があやしいなと思ったら、あっというまに雨が降ってきました。

Img_2721

[足元はぬかるみ、行く手は牛に阻まれ]

見渡す限り緑が広がるグランチェスター・メドウズの真ん中あたりまで歩いたところで、雨は激しくなるばかり。

Photo_20190819021501

[ジュディの後ろを必死についていくうめぞう]

となり村のグランチェスターにたどりついたときには、三人ともずぶ濡れでした。

ブルブル震えながら家にたどり着いたら、あれよあれよというまに晴れ上がるという皮肉な空模様。

Img_2727

[変わりやすいのがイギリスのお天気]

「夜のうちに雨が降って昼は晴れたらいいのにねえ。でもそれじゃイギリス人の話題がなくなっちゃうわね」とジュディは言っていました。髪から雨をしたたらせながら、おもわず笑ってしまったた日曜日でした。

 

2019年8月17日 (土)

ストラットフォードの休日

まつこです。

こんな絵葉書みたいな風景を見ると、何度来ていても観光客の気分になります。

Img_2695

[エイヴォン川に白鳥]

俗っぽい観光地になって、まるでテーマ・パークのようだと言う人もいますが、テーマ・パークに入り込んだら、あまりシニカルにならず楽しむべし。

シェイクスピアの記念碑の前で写真を撮ったり・・・

Photo_20190817005301

[フォルスタッフの真似をしているうめぞう]

シェイクスピアのお墓まいりをしたり・・・

Photo_20190817005401

[数十年ぶりのお墓まいり]

シェイクスピアの墓石のあるところは有料化されて以来、来たことがなかったのですが、今回は久しぶりにここまで進んで、墓碑を読んだり胸像を見上げたりしてみました。

食事も観光客風に・・・

Img_2689

[懐かしさを感じるイングリッシュ・ブレックファスト]

一人だとスタバかM&Sで買ったもので済ます朝ごはんですが、今回はうめぞうと一緒にホテルでイングリッシュ・ブレックファスト。

そうなると午後はやはりクリーム・ティーです。

Img_2683

[シェイクスピア・ホテルのスコーン]

アフタヌーン・ティーでカロリー摂取して、昼夜2本の観劇に備えます。

Photo_20190817010301

[うめぞうはクリームが先かジャムが先か?]

夜もイギリス人の国民食です。

Photo_20190817010401

[イギリス人の国民食はチキン・ティカ・マサラ]

ストラットフォードも新しいお店がいろいろ増えましたが、大昔からあるインド料理店に行きました。古めかしい20世紀っぽいお店です。

20年前とまったく同じ過ごしかたをして懐かしい気分になったストラットフォードの休日でした。

2019年1月 4日 (金)

『ウィンザーの陽気な女房たち』

まつこです。

短いロンドン滞在の最後の1日は『ウィンザーの陽気な女房たち』を見ました。最初から最後まで笑いが絶えない、完全なる笑劇でした。

舞台は現代のエセックスに設定されており、Daily Mailを読んでいそうな奥さんたちが、庶民的な英語でペラペラペラペラしゃべりまくります。シェイクスピアが書いた数少ない「現代劇」に、イギリスの今日を反映させた上演でした。

The_merry_wives_of_windsor_producti

[エステサロンでフォルスタッフを懲らしめる計画を語りあう二人]

「ブレグジットは危機的状況!」というような時事ネタや、イギリス人お得意の辛口の冗談、体をはったナンセンスな笑いが次々繰り出されます。

258104_themerrywivesofwindsorproduc

[なにがあっても懲りない男]

フォルスタッフがテムズ川に投げ込まれるのは原作どおりですが、この上演では洗濯カゴではなく、車輪付きの大きなゴミ収集箱に逃げ込みます。その汚さときたら、芝居のための大道具とはわかっていても、臭いがプンプンしてきそうなほどです。

ドタバタ喜劇だからこそ、役者たちのうまさが印象に残ります。ウェールズの愛唱歌Bread of Heavenをうれしそうに歌うエヴァンズ神父、フランス語と英語のちゃんぽんで怒ったり嘆いたりのキーズ医師、あげ底ブラにヒョウ柄ドレスのガーター亭の女主人・・・。どの役者も観客の笑いのツボを的確に押さえながら、本人たちも楽しそうです。

シェイクスピアで新春初笑いを楽しんだ1日でした。

2019年1月 3日 (木)

『クリスマス・キャロル』

まつこです。

ロンドンで二日目の観劇はオールド・ヴィック劇場の『クリスマス・キャロル』。劇場に入るとヴィクトリア朝の衣装の役者たちがミンスパイを配ってくれます。劇中ではおなじみのクリスマス・キャロルが生演奏で次々と流れ、本物そっくりの雪が客席にふりそそげば、いやがおうでも感傷的なクリスマス気分が劇場を満たします。

Stephentompkinsonebenezerscroogea_2

[マシュー・ウォーカス演出で2年目の上演。主役は交代してスティーヴン・トンプキンソン]

しかしこの『クリスマス・キャロル』は原作に、より現実的な心理的説明や倫理的主張を加えたものでした。

最初の亡霊にうながされスクルージが自分の過去を省みるという展開は同じですが、この上演ではスクルージの父親の冷酷さが強調されます。借金まみれで愛情の薄い父親、過酷な学校生活、結ばれなかった恋・・・そうした辛い過去ゆえに、スクルージの心は閉ざされてしまったのだと背景が浮かび上がる趣向です。

Acc18dr2084

[愛すること、分かち合うことを思い出そうとうったえる結末]

貧困という社会問題に金融業者が責任を感じるべきかどうかという倫理を、亡霊とスクルージが意見を交わす場面もあります。

人間味のない守銭奴の改悛物語ではなく、トラウマのゆえに人を愛することができない男が自分の弱さを克服する物語へと書き直したところがこの21世紀版『クリスマス・キャロル』の特徴です。

喜びに満ちた結末のあと、最後にもう一曲クリスマス・キャロルが流れます。ハンドベルと弦楽器の静かで美しいの音色で『きよしこの夜』が演奏され、観客の心がしっとりと落ち着いたところで、「イギリスでは今日も貧困の中で満足な食事の取れない子供達がおおぜいいます・・・」と寄付を訴えるメッセージを、スクルージが読み上げます。劇場を出る観客たちは次々と募金バケツを持ったスタッフにお金を渡していきました。(私たちも少しだけ寄付しました。)

クリスマス気分をたっぷりと味わいながらも、内心、「貧困問題は緊縮財政の結果でしょう。人々の慈悲心だけじゃなく、政府の責任を問わないとダメでしょう!」とちょっと思ってしまいました。

より以前の記事一覧