読書

2017年9月13日 (水)

デジタル・デトックス

まつこです。

あまりパッとしない天気の夏も終わり、あっというまに秋。その間、私が取り組んでいたのは「デジタル・デトックス」。パソコンやスマホの使いすぎが、体の様々な不調の原因と指摘する人は多いようです。そこで決意したのが・・・

夜8時以降はできる限りパソコン、タブレット、スマホを使わない。デジタル・デトックスです。

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[ネック・レスト・タイマー]

 

画面を見続けることで首に負担がかかり、それが肩こり、不眠、ひいてはウツを引き起こす、という説もあるようです(『首は絶対にもんではいけない!』)。PCで仕事をするときには、15分に一回、30秒の休憩を取る方が良いというのを読み、専用のタイマーまで買ってしまいました。

確かにこのデジタル・デトックスを始めて以来、体調はまあまあ良いように感じています。

もっと良いのが本を読む時間が増えたこと。で、最近読んで、圧倒的に面白かったのが前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』。学生への推薦図書にまでしてしまいました。

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[圧倒的なおもしろさ!]

若い研究者がフィールドワークでの苦労を描いた自伝なのですが、文章のうまさに加え、著者の研究に対する情熱がストレートに伝わってくるのがこの本の魅力です。ポスドクの身分の不安定さ、研究資金と語学力の不足など、苦労の種は尽きない研究生活ではありますが、アフリカの大地でひたすらバッタを追い求め続けるひたむきさと、その苦労をユーモラスかつドラマティックに語る話術がお見事。表紙の写真のヘンテコさにひるまずに手にとってもらいたい一冊です。

この秋はデジタル・デトックスと読書の季節にしたい・・・と思っています。

2017年8月 6日 (日)

へそまがり書評

まつこです。

前からうすうす気がついていたけれど、私ってもしかして天邪鬼かも。

多く人のが「いいね〜」と感動するものに対して、「うーん、どこがいいのかなあ」としらけた反応をしてしまうことがあります。今回はこれ・・・

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[第157回直木賞受賞作。岩波書店初の直木賞。装丁がたいへん美しい]

佐藤正午の『月の満ち欠け』。61歳ですでに以前から手堅い手法が高く評価されている作家の作品だし、斎藤美奈子もほめていたから、思い切り楽しむつもりで手にとりました。でもイマイチのりきれなかった。残念。

なんで楽しめなかったか自分なりに分析してみると、女の子がかわいくないから。月がなんども満ち欠けを繰り返すように、何回も生まれ変わって自分の思いを伝えようとするというストーリーなのですが、その思いを託された女の子たちが妙に女くさい。子供のくせに執念深い目つきで、おじさんを追い求めるって、これは少女に思いを寄せられたい中年男の願望の裏返しなんじゃないか・・・と。

私はそもそもファンタジー系のものが苦手で、社会現象にすらなっているアニメの『君の名は。』にも、ぜんぜん心揺れませんでした。へそまがりなのかもしれません。

でも大絶賛、賞を総なめ、と世間が盛り上がっている時にこそ、違う意見を言えるささやかな勇気は必要です。天邪鬼けっこう。へそまがりでけっこう。だから、あえて言いましょう。星2つ。(満点は5)

2015年11月21日 (土)

The Gap of Time

まつこです。

あたふたと忙しい日々を過ごすうちに、読んだ本の中身もあっというまに忘れてしまいそう。最近読んだ本からいくつかメモを書きとめておきます。

ヴァージニア・ウルフ夫妻が始めた出版社ホガース・プレスでは「シェイクスピア・プロジェクト」というシェイクスピア作品10作を、近年のベストセラー作家に小説化してもらうという企画を始めました。

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[彫像復活の原作『冬物語』にちなんでルーヴル美術館で買ったミロのヴィーナスのしおりを使って読みました]

その第1作目は、ジャネット・ウィンターソンが『冬物語』を現代の小説に仕立てたThe Gap of Time。シェイクスピア劇に登場するシチリア王レオンティーズは、この小説ではロンドンのヘッジ・ファンドの運営会社シチリアの社長レオという設定です。刻々と変化する金融市場で時間の差によって生じる巨大な利益。レオはこの過酷な金融ゲームの勝者でありながら、自らの狂った嫉妬によって家庭を喪失した人生の敗者となります。

ボヘミア王ポリクシニーズはコンピュータ・ゲームのクリエイターのゼノ。捨てられた赤ん坊が美しい娘へと成長し、やがて和解をもたらすというシェイクスピアのおとぎ話の世界は、この現代小説ではゼノが作り出すヴァーチャルなゲーム空間に置き換えられています。

このようにウィンターソンは巧みに設定を現代社会に移し替えながら、シェイクスピア劇でも問われている「時」の意味をこの小説で探ります。嫉妬、憎悪、死という悲劇の中で未来への希望は失われる。けれど長い時を経て許しと和解を人々が選ぶとき、再び未来への希望が生まれ、それによって失われた過去が再び意味のある人生の一部として見えてくる。未来は過去によって作られ、過去は未来によって作り直される。「時」の持つ残酷さと治癒力を、独特の散文で印象的に描いた小説でした。

この小説で重要な舞台となるのがパリです。セーヌ川の橋下で娼婦を買う心荒んだ若き日のレオ。そのレオが出会うパリの歌手ミミ。親友レオに頼まれミミに求婚するためパリにやってくるゼノ。このゼノとミミの過ごすパリは美しい夜の叙情に包まれています。

汚いパリと美しいパリ、その二面性に、The Gap of Timeとはぜんぜん違う本でも出会いました。ジャンポ〜ル西の漫画。『パリ 愛してるぜ~』、『かかってこい、パリ』、『パリが呼んでいる』。パリに憧れた漫画男子の「男目線のパリエッセイ」です。貧乏なバイト生活をしながら見たパリは、ローアングルの地を這うように低い視点からリアルに描かれています。面白くてついつい三部作を一気読みしてしまいました。

貧困と猥雑のパリは「狂乱の20年代」と呼ばれる大戦間のきらびやかな時代にもありました。ジョージ・オーウェルの『パリ・ロンドン放浪記 (岩波文庫)』は、芸術家が集う華やかな時代の舞台裏を赤裸々に描いたルポルタージュです。ロシアからの亡命者、娼婦、詐欺師、どん底にうごめく人々の間に、オーウェルは自ら飛び込んで若き日を2年間過ごしました。感傷を排したリアルな筆致からは、体臭や騒音が生き生きと湧き上がってきます。

様々な人々を引き寄せてきたパリは、歴史のうねりをもっとも強く映し出す都市のひとつなのでしょう。パリという名前に、日本人女性が無邪気な憧れを抱く時代はたぶん終わりつつある(すでに終わった?)のだろうなと思いながらも、冬休みにパリー成田のチケットを買ってしまっていた私は、果たしてどうするべきか・・・いやはや、悩ましいところです。

 

2015年8月 5日 (水)

Universal Threat

まつこです。

8月から9月にかけてはケンブリッジで過ごす予定だったのですが、昨日、JALに電話をして、フライトをキャンセル。この夏は健康回復がまずは先決です。

というわけで、老眼鏡かけて、エアコンの効いた部屋に閉じこもる夏です。読みたくないものを無理して読むとストレスがかかって身体に悪そうなので、読みたいものだけを読むことにしました。

[『日本語が亡びるとき』(2008)は小林秀雄賞受賞の話題作でした。今年1月にコロンビア大学出版会から英訳が出版されました]

6月19日付の「タイムズ文芸付録」に水村美苗『日本語が亡びるとき』の英訳The Fall of Language in the Age of Englishの書評が掲載されていました。水村美苗ファンとしては読まないわけにはいきません。

書評者は村上春樹の英訳で知られているハーバードのジェイ・ルービン。タイトルは"Universal threat: The sturugglesof Japanese literature against its own internal handicaps and the advance of English."

『日本語が亡びるとき』はこのブログでも取り上げたことがありますが(「古い机」2008年12月30日)、英語も日本語もひっくるめて日本の言語教育の無為無策ぶりを痛烈に批判する鋭さが痛快でした。ファンタジー文学がハリウッド映画などを通してグローバルな市場で売れているのは、善悪が戦う大きな物語の枠は言語不要だから、という説にも納得しました。

日本語と日本文学を守るために日本人に向けて檄を飛ばした本でしたが、これが英訳されると、いわゆる「英語帝国主義」への挑戦と受け止められたようです。評者ジェイ・ルービンは水村が日本語の特殊性だけをことさら強調しすぎているのではないかと保留をつけながらも、英語のみを使ってナイーブな自己満足にひたっている人々のには見えないものがあるという点では、共感を示しています。

ただ、世界共通語としての英語による帝国主義的支配というと、英語そのものが持つ複雑な豊かさが見落とされてしまうきらいもあります。英語だけしか使わない人々にも他言語話者には簡単に理解できない文化や文学の蓄積はあるわけで、その点では日本語であれ、英語であれ、同じ問題に直面しているように思います。インターネットによる書き言葉の質の変化とか、テクノロジー万能の時代の思考スパンの短さとか、"Universal threat"に脅かされているのは、日本文学だけじゃなくて、英語文学だって同じじゃないでしょうか。

2015年6月27日 (土)

第四の男

まつこです。

もう1ヶ月ほど前のことになりますが、ケンブリッジの友人が雑誌記事を切り抜いて送ってきてくれました。Country Lifeというライフスタイル雑誌に掲載された記事「第四の男の正体はシェイクスピア」("I know who the fourth man is -- it's Shakespeare")です。

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[Country Lifeの当該号の表紙]

マーク・グリフィスという植物学者・歴史学者が数年間にわたって検証した結果、The Herballという題の本草学の本の表紙に描かれていた人物像の一人が、シェイクスピアだと確証できるという内容です。

Country Lifeは19世紀末に創刊された週刊誌で、美しきイングランドの田園、カントリーハウス、コテッジの庭、アンティークといった、悠々たるミドルクラスの生活の楽しみを美しいカラーグラビアと記事で伝える雑誌です。

グリフィスは、植物学、紋章学、図像学、古典学、書誌学等々の知識を駆使し、細密画のようなタイトル・ページの絵に秘められた暗号を読み解き、そこに描かれていた4人の人物を特定しています。それがCountry Lifeらしい美しいグラビアつきで20ページ近い記事にまとめられていて、読みものとしてはとても面白かったです。まるで推理小説を読むような感じ・・・そう、あの『ダ・ヴィンチ・コード』を読むような面白さです。

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[こちらがJohn GerardのThe Herballという本草学の本の表紙。右側の真ん中が問題の人物像]

肖像画が見つかったというだけでなく、若き日のシェイクスピアはバーリー卿ウィリアム・セシルをパトロンとし、息子ロバートの昇進のため、エリザベス女王を館に迎える歓迎の小品を書いたという、伝記の大きな見直しにつながる発見だとグリフィスは主張しています。

Country Lifeの当該号が出る前に、BBCや新聞各紙は大ニュースと伝えました。一方、アカデミックな世界からは、冷ややかな懐疑論や痛烈な反論が寄せられました。でも発見の真偽のほどはともかく、詳細な推論の積み重ねそのものには、知的ゲームの面白さがあることは確か。結論だけをとりあげて「トンデモ論」と切って捨てるのではなく、まずは読んで楽しむという余裕も必要かな、という気もしました。

まあ、こちらに知識がないぶんだけ、内容を鵜呑みにする素直な読者として楽しめるという面はあるのですが。本物のアカデミシャンはこういうのを読んで「楽しむ」というわけにはいかないのだろうなあ・・・。

2015年1月29日 (木)

オニオン・パワー

まつこです。

先週末からこの冬3度めの風邪。今回は熱と咳。やれやれ・・・。

今回はこれで回復をはかっていますーー

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[オニオン・ハニー]

玉ねぎのみじん切りに、マヌカ・ハニーをまぶし、玉ねぎの汁が出るまで時間をおいたものです。

ネットで見つけた民間療法ですが、なんだか効いたような気がします。私はこれを熱いルイボスティーに入れて、玉ねぎごと、飲みました。わりあい速く熱が下がり、今は鼻風邪状態までに回復しています。

玉ねぎにはいろんな力があると信じているのは、児童文学のHolesを読んだからかもしれません。現代と100年前の物語がパラレルに進み、その二つの物語がだんだんうまく結びついていく、よくできた小説です。その二つの物語を結びつけるのが玉ねぎ。医者よりも玉ねぎ。物語の中で何人かの人が玉ねぎで命を救われます。

心優しいけれど、おデブちゃんで気が弱い、さえない少年がたくましく成長していく物語です。わくわくハラハラするストーリー展開で、英語もとても読みやすいので、原文で小説を読んでみたいと思う英語学習者にオススメの一冊です。

2013年11月 3日 (日)

Bridget Jones: Mad about the Boy

まつこです。

今日は久しぶりのオフ。『ブリジット・ジョーンズ』の第3作目(Bridget Jones: Mad About the Boy) を読み終えました。

イギリスでの書評はイマイチ・・・。50才過ぎのシングル・マザーの悪戦苦闘、若い恋人に自ら別れを告げる大人の態度、母親との確執と和解など、ちょっとホロリとする場面もあるのですが、筋の展開に意外性が欠けている感じは否めません。それでも発売初日にイギリスだけで5万部売れ、Amazonでもベスト・セラーになっているようです。

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[左がcreme de menthe、右はFairy liquid。どんなに酔っぱらっても間違えてはいけません]

映画化はまだ決定していないそうですが、もし映画化されれば中年ダメ男"Dirty Bastard"ダニエル(Daniel Cleaver)としてヒュー・グラントが再登場することは必須です。若くてゴージャスな女にふられたやけ酒で、ミントのリキュールを一本飲み干したら、実は台所用の洗剤。泡を吹いて倒れて救急搬送されるという場面は、ぜひともヒュー・グラントに演じてもらいたい。

病院にお見舞いに行ったブリジットは、口から泡を出すダニエルを見て、次のように考えます。

"You could see exactly what had happened. It's like when you run out of dishwasher tablets, and think it would be a good idea to put washing-up liquid in instead and it all froths up inside."(食洗機用洗剤がなくて、液体洗剤で大丈夫だろうと思っていれたら、中が泡だらけになっちゃうけど、まさにあれと同じね。)

ドジなブリジットならではの発想ですが、実は私も経験者です。泡だらけの食洗機。今年の夏、ロンドンのアパートでのことでした。

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[泡だらけで中の食器が見えない・・・]

短期間の滞在に食洗機用洗剤まで買うのは面倒だからと、液体洗剤を少なめに入れてみたのですが、ハッと気がつくとキッチンの床が泡だらけになっていました。食洗機のドアのすきまから絶え間なく泡が流れ出続けています。

あわててスイッチを切ってドアをあけると、中から熱い湯気と泡がうわーっとあふれ出てきました。急いでバスタオルで床をふき、泡をボウルでかき出している最中に、「こんな大量の泡はめったに見られないから写真に撮ってうめぞうに送ってあげよう!」と、カメラに収めた一枚です。

この失敗、作者ヘレン・フィールディングもやったことがあるに違いありません。親近感を感じます。第3作目は若干期待はずれだったけど、やがて老後のブリジットもぜひとも小説にしてもらいたいと思いました。消費と恋愛を謳歌していたブリジットが、70代を迎えてどんなおばあちゃんになるのかー。同世代としてぜひとともおばあちゃん同士で再会したいと願っています。

2013年10月11日 (金)

女子力回復?

まつこです。

多くの人は明日から連休なのに、私は仕事。先週末も出張だったし・・・。そんな時はついつい逃避行動に走りがちー

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[これで若いの頃の気分にもどって女子力回復といきたいところ]

ちょうど良いタイミングで、以前に注文していたCDと本が届きました。ヘレン・フィールディングの最新作、Bridget Jones: Mad About the Boy と、今井美樹がユーミンの曲をカバーしたアルバム、Dialogue -Miki Imai Sings Yuming Classics-

今井美樹は80年代から90年代の懐かしい曲を、いつものきれいな声で歌っています。アレンジもおしゃれ。

待望のブリジット・ジョーンズ最新作は発売されたばかり。これが届くのを、私は『ハリー・ポッター』の最新作を待つ子供のように待っていました。51歳になったブリジットはなんと未亡人。子供二人を抱えて、これからまた恋愛ゲームに参戦するようです。

ああ、早く読みたい・・・

でも、仕事があって、こんなの読んでいる場合じゃないんだけど・・・

こうして誘惑にかられて悩むことからして、すでに楽しい。20代、30代だった頃のちょっとセンチメンタルな曲を聞いてノスタルジックな気分にひたり、シングル・マザーになったブリジットの奮戦にわくわくすれば、女子力も回復。連休返上の忙しさもこれで乗り切ります!

2013年8月29日 (木)

ヴァカンス用の1冊:The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry

まつこです。

ヴァカンスには仕事を持ってきてほしくない!

これは世の多くの妻たちの本音でしょう。しかし「締め切り」があれば仕方がない・・・ということで、うめぞうは遥々フランスはロワールの地まで来て、仕事をしていました。

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[このコーナーは本来、化粧台として使われるものだと思いますが、私たちが滞在した1週間はうめぞうのワーク・スペースとなりました]

わたしの方もするべき仕事がないわけではないけれど、それらはすべて後回しにし、ロワールへはペーパーバック一冊だけを携えて行きました。

このホリデー用の本の選択は、シャンブル・ドットの選択と同じくらい、大切です。貴重なヴァカンスの時間を十分に楽しめる一冊を選びたいものです。わたしはこんな時には、朝日新聞別冊Globeの連載「世界の書店から」でイギリスの担当をしている園部哲さんの記事を、多いに参考にさせてもらっています。

で、今年のホリデーのために選んだのがこの1冊ーー

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[ゆっくりと、心を解きほぐしていく小説でした]

 Rachael Joyceの長編小説The Unlikely Pilgrimage of Harold Fryです。古い友人から突然届いた手紙をきっかけに、イングランドの南の端から北の端まで巡礼(pilgrimage)をしていく60代半ばの男の物語です。

長い日時をかけて歩いていく道のりは、自らの人生を振り返る時間でもあります。人生とは振り返れば、後悔と失意の連続であることが浮かび上がっていきます。一人、家に残された妻も、過去と直面せざるをえません。夫への嘘や自分への偽りが積み重ねられてきた長い時間がそこには横たわっています。

イングランドの小さな町や村の景色、そこで出会う人々、彼ら一人一人にも取り返しのつかない過去の物語があります。各地にはそれぞれの地域色があり、歴史的な遺産もあります。世界がネットワークで瞬時につながり、どこも同じようになってしまったように見えて、イングランドという小さな国の中にも地域の多様性が残っていることを、主人公のゆっくりとした足取りとともに確かめていくことができる小説です。

家族、老い、生、死、信仰、愛情、孤独・・・様々なテーマが浮かび上がるたび、すこし立ち止まって考え込み、そしてまた先に進んで行く。ただただ愚直に進むだけではなく、予想通ににはいかない逸脱や、大きなどんでん返しも組み込まれています。

ヴァカンスのようなゆっくりした時間に、丁寧に読むことができて良かったと思える物語でした。ただイングランドの細かい地名が出てくるので、ちょっと注意が必要です。わたしはしょっちゅうGoogle mapで小さな村や町の名前を確認しながら読みましたが、実は最後のほうにイングランドの地図がのっています。物語の結末を読んでしまわないように気をつけながら、巻末のこの地図を参照すると読みやすいでしょう。

2012年11月11日 (日)

ブリジットが帰ってくる!

まつこです。

日本でも人気を集めた『ブリジット・ジョーンズの日記』の原型となるコラムが日刊紙『インデペンデント』に掲載され始めたのは1995年のこと。それが翌年に単行本化されると、各国語に次々と翻訳され、世界的ミリオン・セラーとなり、映画化、ミュージカル化、さらに1998年には続編も出版されました。

体重の増減、タバコの本数、ワインの量、留守電のメッセージ数、そしてセックスの回数を、日記に記録する独身ワーキング・ウーマン。その本音満載の日記に共感する女性たちの間で、「ブリジョン」は一大現象でした。

そのブリジッド・ジョーンズの日記の第3作目が、来年、出版されるそうです。

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[ヘレン・フィールディング近影。チャーミングなインテリ女性という印象は10年前と変わりませんが、しかし顔には確かに過ぎて行った10余年の年月が刻まれています。「ああ、あなたもいろいろあったのね〜」、と思わず声をかけたくなりました]

作者ヘレン・フィールディング(Helen Fielding)は1958年生まれ。オックスフォード大学を卒業後、BBCやテムズTVで働いた後、インデペンデント紙やテレグラフ紙にコラムや記事を書くジャーナリストとなりました。『ブリジッド・ジョーンズ』第1作が映画化される頃からロサンジェルスに移り住み、『シンプソンズ』のプロデューサーと結婚し、二児の母となりました。(注:大学時代は同じオックスフォード大のリチャード・カーティスと付き合っていたとか。)

学歴、キャリア、恋愛、結婚、出産、いずれにおいても「勝ち組」のヘレンでしたが、21世紀のサクセスフル・ウーマンは離婚、シングル・マザーという苦境も力強く乗り越えて行きます。2年ほど前に、子供をつれてロンドンに戻ってきて、子育てしながら現在、第三作目を鋭意執筆中とのことです。

BBCのインタビューでは第三作目の内容についてほんのちょっとヒントを語っていましたが、ブリジットは今でもダイエットと禁煙、節酒という目標に向け、相も変わらず苦闘中だそうです。「でも彼女も成長しているのよ」とのこと。最初に単行本化されたとき、夢中になって一夜にして読み切ってしまった同世代の元シングルトンとしては、その成長ぶりを読むのが今から楽しみです。