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2021年9月 3日 (金)

罰の重さ

まつこです。

有罪者は罰としてシェイクスピアを勉強すること。こんな判決がイギリスのレスターで本当に下されました。

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[君、反省してる?写真はLeicester Mercuryより]

白人至上主義のネオ・ナチの大学生が、移民や同性愛者を排斥する文章を書いたり、極右思想や爆発物製造に関する大量の文書をダウンロードしてハードディスクに保存していたため、テロ未遂の容疑で捕まりました。裁判で有罪判決を受けたのですが、話題になったのはその「量刑」です。実刑判決の投獄は免れたものの、2年間の執行猶予期間の間、4ヶ月に一度、裁判官に面談し、課題図書についてのテストを受けるのだそうです。

判決を言い渡した裁判官はこう言ったそうです。「若さゆえの愚かさだ・・・君はディケンズを読んだことがあるかね?オースティンはどうだ。まずは『プライドと偏見』から始めなさい。それから『二都物語』、つぎにシェイクスピアの『十二夜』。それからハーディ、そしてトロロップはどうだね?第1回目の面談は1月4日だ。その日に読んだものについて私に話してもらうよ。読んだものについて私がテストをするからね。」

ヘイト・クライムに反対する団体からは、この判決は甘すぎて、他の若者たちへの犯罪抑止にならないと、見直しを訴える声が上がっているそうです。

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[ヘルスメーターで測ったら上下合わせて3.4キログラムありました。あまりに重い]

「罰の重さ」について考えようとしたとき、私の頭の中に思い浮かんだのは、学生時代に使わされたイギリス文学のアンソロジー、上下2冊の「物理的重さ」でした。私の行っていた英文科では、英文学史の授業が18世紀を境目に前半と後半に分かれていました。その新旧二つの英文学史の授業2コマ、それぞれで次週までに読んでくる課題箇所を指定するのですが、まともにやろうとすると1冊ずつが漬物石のように重いアンソロジーを週2回も持ち運ばなければならないのです。

時は1980年代、ハマトラだ、ニュートラだと流行を追いかける女子大生ブームの真っ只中です。クレージュかなにかのお弁当型の小ぶりなバッグを肩にかけ、あとはかっこよさげな薄手の洋書とバインダーをブックバンドで束ねて小脇に抱える、というのが女子大生の一般的イメージ。電話帳みたいに分厚いアンソロジーは、この軽くて薄い女子大生ファッションの中で、あまりにも重い。

重さを少しでも軽減すべく、布でできたお稽古バッグみたいなのにこのアンソロジーを入れて通学してみようとしましたが、「それ、ダサいね」というおしゃれなクラスメートからの視線が痛かった。なんの罪でこんな重いものを持ち運ばなければならないのか・・・。

というわけで、やがてアンソロジーは上下巻とも、大学のロッカーに放りっこみぱなしになりました。課題部分なんて読まずに、授業はただぼーっと聞くだけ。試験に出そうな有名箇所を試験前に大慌てで原文を読んで乗り切りました。

レスターの裁判官の試験は、こんな一夜漬けじゃあごまかせないんだろうなあ、と思いつつ、それにしてもこの裁判官の課題図書の選択は、いかにもイギリス文学の「正典」そのもの。これじゃあ、40年前の女子大の英文学史の授業の課題図書とほとんど変わりません。21世紀の極右の若者への「罰」としての課題図書には、サルマン・ラシュディとかゼイディー・スミスみたいな移民系作家が入る余地はないのかねえ・・・。シェイクスピアの『十二夜』って、堅物のおじさんをさんざんに笑い物にする喜劇だけど、そんなのを読んで、果たして人権意識が高まるのかねえ・・・。いろいろ疑問も湧いてくる判決でした。

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