« 転ばぬ先の杖 | トップページ | 春到来 »

2018年3月 1日 (木)

神経痛と名講義

ひさびさにうめぞうです。

2月はほぼ2週間、脊椎管狭窄による座骨神経痛に苦しめられベッドに横臥。入試など重要な職務も着任以来、初めて病欠。3月を迎え、ようやく痛みもとれ、まつこの報告にあるように杖なしでも歩けるようになった。その間、ご心配いただいた読者の方々には感謝の気持ちでいっぱいです。どうもありがとうございました。

これまでも何度か、ドイツ語で「魔女の一撃」(Hexenschuss)と称するぎっくり腰は経験しているが、今回のような座骨神経痛は初体験。痛みそのものは激痛というより鈍痛なのだが、これが思いのほか手強い。波のように押しては引き、引いては押し、それがまたなんともいえぬ不快な、引きつるような痛みだ。ぎっくり腰なら痛まない姿勢を見つけてひたすらじっとしていることが可能だが、神経痛は痛くない姿勢がとれない。それゆえ眠れない。特に左足を伸ばすと激しい痛みがあるため、トイレに行くにも二足歩行以前の類人猿のごとく歩くほかない。

Conflict_resolution_in_human_evolut

[うめぞうの腰痛は進化の代償か?]

医学部教授だった友人によれば「頚椎と腰椎の痛み、および痔疾は、直立二足歩行などという不遜な進化を目指した人類の三大宿痾である」とか。言語や道具を作り出し、これだけ便利な世の中を楽しんでいるんだから、その程度の進化の代償は甘受するほかないようだ。とはいえ失楽園の原罪をなんでうめぞう一人が背負わなきゃいけないのか。オレはキリストじゃないぞ、と拗ねながら、寝る時も当然ながらひたすら横臥。地質学で言えば褶曲地層。まあそれでも断層よりはましだろうと、ひたすら耐えるほかない。

 しかし、1年ほど前に製造販売が始まったというリリカという神経障害性疼痛の治療薬は、じつによく効いた。ただ効き始めるまでに若干時間がかかるとかで、トラムセットという強力な痛み止めをつけ加えて、「ここは最強コンビでガツンといきます!」と、かかりつけの女医さんはいくぶん興奮気味。この人、ちょっと喜んでないか、と痛みに苦しんでいる時には、痛みが他者に伝わらないことにとかく僻みっぽくなる。しかし、今では女医さんに感謝感謝。この薬は今も飲み続けているが、たしかにこういう時には苦しい時の神頼み、新薬の治験や価格設定をめぐる多国籍製薬会社の手法には日頃から批判的なうめぞうも、めざましい新薬には感謝せずにはいられない。

とまあ、いろいろな経験をした2月。しかし、とても良いこともあった。ほかにすることがないので、ユーチューブでディートマール・ヒュープナー(Dietmar Hübner)の社会哲学講義、各1時間半、全12回シリーズを聞くことができた。こんなことは横臥褶曲状態の時くらいしかできなかっただろう。ヒュープナーというのは、今うめぞうが注目しているドイツの哲学者だが、同時に詩人でもあり、作曲家でもある。1968年生まれだから、今年50歳を迎えるが、哲学の分野ではまだ若手という印象だ。これからも多くの著作を発表していくことだろう。倫理学の哲学的基礎づけに関心をもち、新自由主義的な選択理論を批判している。ヒュープナーの強みは、さまざまな哲学潮流を自分なりの視点で相互比較し、それを新たな理論へと統合していく能力にじつに長けている点だ。また詩人であり作曲家であるだけに、講義がじつに名調子で活舌もしっかりしている。

英語のレクチャーの理想は、おそらく落ち着いたロー・ヴォイスで、流れるような柔らかいリズムと抑揚でうっとりさせ、要所要所にユーモアと辛辣な皮肉をはさみこみ笑いを取るといったスタイルだろう。あれはあれでじつに魅力的で、演劇や政治家の議論にも同じ味が感じられる。それに比べるとドイツ語の演説は体操の跳馬のようで、いったん、わっと高く飛び上がり、できるだけ滞空時間を長引かせたあとで、最後にがちっと着地を決めて聴衆をうならせるというスタイルを理想とする。イギリスの大学での名講義、コモンズでの政治家の討論には、ユーモアや皮肉で聴衆を大笑いさせる要素が不可欠だが、ドイツの講義には、その種のサービスはあまり見られないように思う。ヒュープナーの講義も全体としてはいかもにドイツ風の尖った演説調だが、内容的にはプラトンからハーバーマスまでじつに見事に西洋の社会哲学の流れを論じている。これは、今回のみじめな2週間が贈ってくれた、苦痛を補ってあまりあるプレゼントだったと感謝している。

« 転ばぬ先の杖 | トップページ | 春到来 »

コメント

うめぞうさん、だいぶ良くなったようで本当に安心しました。お早い回復はやはりまだまだお若いということですよ。痛みに対する耐性というのは人ぞれぞれらしいですが、私はからきしダメで、大騒ぎしてしまいます。久々の長文記事アップbyうめぞうも、まさに読者にとっては、けがの功名。ともあれ、春休み中だったのがまだ幸いですね。気長に養生なさってください。

どうもありがとうございます。うめぞうは、痛みにはけっこう強い方で、歯医者などでは、「よくこの治療で痛がらないねえ」と感心されます。それでも神経痛は、けっこう強烈であることがわかりました。
しばらく、投稿から離れていたのは、日常業務に追われていたこともあるのですが、ともかく世界の混迷の度合いがうめぞうの理解力を超えて深まったことも一因。4月からは大学の学内業務が少し軽減しそうなので、このあたりで体制を整えて、またときどき顔を出すことにします。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 神経痛と名講義:

« 転ばぬ先の杖 | トップページ | 春到来 »