ブライトンでピンター
まつこです。
イギリスの夏だって、たまにはこんな日があります。
ジョージ四世が摂政だった時代に作った宮殿など見学し・・・
海を眺めながら遅めのランチを優雅に食べ・・・
[1984年、保守党の党大会が開かれたときにIRAの爆弾テロがあったホテル]
豪華なグランド・ホテルに投宿し・・・
ニースにしてもブライトンにしても19世紀に高級リゾート地だったところは、豪勢な建物が潮風と太陽にさらされて古びて、厚化粧が剥げかけたような倦怠感が漂うように感じられます。
ブライトンまで出かけてきたのは、ハロルド・ピンターのNo Man's Landを見るため。9月になるとロンドンでも見れるのですが、ブライトンには来たことがなかったので、観光もかねてやってきました。主演はイアン・マッケランとパトリック・ステュアート。
酒を飲み続ける老人二人のやりとりなのですが、酔いと高齢による記憶の不確かさで、言っていることがぜんぜんあてにならない。言葉のやりとりの端々は面白いんだけど、いつまでたっても状況はあいまいなまま。過ぎ去った時間も終わりかけた人生もが手探りの記憶でしかない。イライラと笑いの間の無人地帯という感じの芝居です。
パトリック・ステュアート演じるハーストの方が、ときに弱々しく、ときに攻撃的に、ときに紳士的にと会話の内容によって立場と表情を変えるのに、一方のイアン・マッケラン演じるスプーナーは終始自分の立場を守ろうとするフーテン老人の闖入者。二人ともうまいのは伝わるんだけど、でも言葉のやりとりのおかしみが、残念ながら理解できず、周りの観客がドッと笑うのに「え、今、何がおかしかったの?」と焦ることがたびたび。
ブライトンくんだりまできて、古めかしい劇場で、爆笑に包まれ、なんとなく虚しい作り笑いを浮かべている私の方が、ステージの上の二人より、よほど不条理な状況に置かれているんじゃあるまいか、とも感じた一夜でした。(ピンターでこういう経験するの初めてじゃないんで、ある程度覚悟していたんですけどね。コンテクストを奪い、言葉だけで笑いを起こすという手法は、外国人にはハードルが高いと改めて確認した気がします。)
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