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2015年11月21日 (土)

The Gap of Time

まつこです。

あたふたと忙しい日々を過ごすうちに、読んだ本の中身もあっというまに忘れてしまいそう。最近読んだ本からいくつかメモを書きとめておきます。

ヴァージニア・ウルフ夫妻が始めた出版社ホガース・プレスでは「シェイクスピア・プロジェクト」というシェイクスピア作品10作を、近年のベストセラー作家に小説化してもらうという企画を始めました。

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[彫像復活の原作『冬物語』にちなんでルーヴル美術館で買ったミロのヴィーナスのしおりを使って読みました]

その第1作目は、ジャネット・ウィンターソンが『冬物語』を現代の小説に仕立てたThe Gap of Time。シェイクスピア劇に登場するシチリア王レオンティーズは、この小説ではロンドンのヘッジ・ファンドの運営会社シチリアの社長レオという設定です。刻々と変化する金融市場で時間の差によって生じる巨大な利益。レオはこの過酷な金融ゲームの勝者でありながら、自らの狂った嫉妬によって家庭を喪失した人生の敗者となります。

ボヘミア王ポリクシニーズはコンピュータ・ゲームのクリエイターのゼノ。捨てられた赤ん坊が美しい娘へと成長し、やがて和解をもたらすというシェイクスピアのおとぎ話の世界は、この現代小説ではゼノが作り出すヴァーチャルなゲーム空間に置き換えられています。

このようにウィンターソンは巧みに設定を現代社会に移し替えながら、シェイクスピア劇でも問われている「時」の意味をこの小説で探ります。嫉妬、憎悪、死という悲劇の中で未来への希望は失われる。けれど長い時を経て許しと和解を人々が選ぶとき、再び未来への希望が生まれ、それによって失われた過去が再び意味のある人生の一部として見えてくる。未来は過去によって作られ、過去は未来によって作り直される。「時」の持つ残酷さと治癒力を、独特の散文で印象的に描いた小説でした。

この小説で重要な舞台となるのがパリです。セーヌ川の橋下で娼婦を買う心荒んだ若き日のレオ。そのレオが出会うパリの歌手ミミ。親友レオに頼まれミミに求婚するためパリにやってくるゼノ。このゼノとミミの過ごすパリは美しい夜の叙情に包まれています。

汚いパリと美しいパリ、その二面性に、The Gap of Timeとはぜんぜん違う本でも出会いました。ジャンポ〜ル西の漫画。『パリ 愛してるぜ~』、『かかってこい、パリ』、『パリが呼んでいる』。パリに憧れた漫画男子の「男目線のパリエッセイ」です。貧乏なバイト生活をしながら見たパリは、ローアングルの地を這うように低い視点からリアルに描かれています。面白くてついつい三部作を一気読みしてしまいました。

貧困と猥雑のパリは「狂乱の20年代」と呼ばれる大戦間のきらびやかな時代にもありました。ジョージ・オーウェルの『パリ・ロンドン放浪記 (岩波文庫)』は、芸術家が集う華やかな時代の舞台裏を赤裸々に描いたルポルタージュです。ロシアからの亡命者、娼婦、詐欺師、どん底にうごめく人々の間に、オーウェルは自ら飛び込んで若き日を2年間過ごしました。感傷を排したリアルな筆致からは、体臭や騒音が生き生きと湧き上がってきます。

様々な人々を引き寄せてきたパリは、歴史のうねりをもっとも強く映し出す都市のひとつなのでしょう。パリという名前に、日本人女性が無邪気な憧れを抱く時代はたぶん終わりつつある(すでに終わった?)のだろうなと思いながらも、冬休みにパリー成田のチケットを買ってしまっていた私は、果たしてどうするべきか・・・いやはや、悩ましいところです。

 

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