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2015年1月30日 (金)

The Hard Problem

まつこです。

風邪をおしてロンドンまで出かけました。熱があろうと、雪が降ろうと、はってでも見に行きたかったのは、トム・ストッパードの新作The Hard Problem

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[テムズ川の寒風が風邪の体にこたえた夜・・・]

でも・・・

9年ぶりのストッパードの新作は、起爆力を欠いて、おとなしく小さくまとまった習作風でした。ニコラス・ハイトナーのナショナル・シアターでの最後の演出ということも重なり、期待が気球のように膨らんでいただけに、ちょっとションボリ。

心とは何か、脳と心はどんな関係か、人間の行動はすべて科学で説明できるのか・・・という、容易には答えの出ない問題がタイトルになっているハード・プロブラム。脳科学研究所に就職した心理学者のヒラリーが、合理的な解明を信じる科学者たちに囲まれながらも、神を信じ、人の善意を信じ続ける・・・という内容。

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[劇場はナショナル・シアターの小劇場The Dorfman(以前のCottesloe)]

複雑に絡みあったシナプスのようなワイヤーのオブジェが青く輝き、バッハの平均律のピアノ曲集の丹精なメロディーが流れる舞台は、数学的な美しさを感じさせます。ですがその舞台で繰り広げられる会話が残念ながらちょっと平板なままで、ストッパードらしい知的なスリルがあまり感じられませんでした。

ヒロインのヒラリーは15歳で妊娠出産して、子供を手放したという過去があることがやがて判明しますが、屈折した心理や人間関係の複雑さも、もうひとつ鮮明に浮かび上がってきません。「偶然」か「奇跡」か、「科学」か「哲学」か、「心身二元論」か「機械的一元論」か・・・というような議論の材料は無数に使われているのに、どれも物足りない。休憩なしの100分という短い劇でした。

チケットは発売と同時に売り切れ、新聞各紙は初日を前に関連記事を掲載し、いやがおうにも期待が高まっていたのですが。今日いっせいに出た劇評にもかなり手厳しいものがまじっていました。新しい才能がなかなか出てきていないイギリス演劇界だけに、大御所ストッパードに大きなインパクトを期待してしまっていたのでしょう。

このささやかな室内劇よりも、私にはプログラムに掲載されていたストッパードとリチャード・ドーキンズの往復書簡の抜粋の方が面白かったです。因果論では説明しきれない人間の行動を描こうとし続けた劇作家と、生命の複雑なふるまいの根源に遺伝子の働きを見ようとした科学者。いっそこの二人を登場人物にした劇を書いたら面白いのではないか、と思いながら夜のロンドンを後にしました。

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コメント

なんかコムズカシそうなお芝居ですね。英語でこれについていけるなんて、さすがまつこさま。しかし、そのチケットの売れっぷりはさすがストッパード、というかさすがイギリス。大御所であろうと手加減しない劇評も素晴らしいです。それにしても、晩年の作品はイマイチというのは、いろんな巨匠に通じるような気がします。。。

Pukiさん、コメントありがとうございます。

いやいや、セリフついていけなくて煙に巻かれるところがストッパードの面白さ。Hapgoodでの不確定性理論も、Arcadiaでのカオス理論も、「わからないけど、おもしろい!」と実感できたのですが・・・。

『テレブラフ』が星2つ、『インデペンデント』が星3つ。いずれも「本当は絶賛したかったのにガッカリ」という書き方。ところが『ガーディアン』の劇評家ビリントンは星4つ。イギリスでも大物に遠慮する劇評ってあるのね、と思いました。

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