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2015年1月

2015年1月31日 (土)

原理主義の由来

うめぞうです。

イスラム国の台頭にはまったく言葉を失ってしまうが、片やヨーロッパにおける反イスラム運動の高まりにも危惧の念をいだかずにはいられない。ここは穏健なキリスト教徒とイスラム教徒が連帯して、宗教的原理主義に対する抵抗力をつけていくことが大切だろう。

そこで今日は少し大きな歴史的文脈の中で、この現象を見ておくことにしたい。まず押さえておかねばならぬことは、宗教的原理主義は近代の現象だということだ。

資本主義的近代は伝統宗教によって支えられてきた社会統合を利用しながら発展し、かつその発展途上で宗教の社会的役割を切り崩していく。近代化とは、資本主義と伝統宗教が対立と葛藤を経ながら相互学習をしていく歴史だともいえる。西洋社会はこの相互学習に数百年の時をかけている。自然の科学的理解を宗教権力から切り離すためにも長い闘争を必要とした。宗教権力から相対的に自立した世俗的法治国家を建設するために、市民革命も経験してきた。日本もまた植民地化を免れたおかげで、内発的に脱宗教的な国家形成をなしとげる歴史的な余裕を与えられた。

しかし、今の中東地域には、みずからの宗教伝統と急速な資本主義化との相互媒介と相互学習のための歴史的猶予が十分に与えられなかった。それは大部分、暴力と利害計算にまみれた先進諸国の資源と覇権の争奪戦、および間接的直接的な植民地支配によるものだ。

今日、西側社会が中東地域の苦しみを理解するには、イスラムが原理主義に傾きやすい特殊な宗教だという理解を捨てて、自分たちもまた同じ葛藤や対立を通過してきたことを思い出す必要がある。近代化が失敗した場所では、キリスト教であれ、ヒンズー教であれ、ユダヤ教であれ、原理主義はかならず台頭する。アメリカの極右勢力もまた、進化論さえ受け付けない福音派の原理主義者によって支えられている。どこの国であれ、伝統宗教と近代社会は相互学習を続け、たがいに自らが提供できないものについて、謙虚に学び合う関係を築く必要がある。それに失敗すればつねに原理主義の台頭を招く危険がある。そうならないためには、その相互媒介をするための十分な時間と、教育と、そしてその前提としての平和が保障されなければならない。それゆえ今は、どのような形でもまず休戦協定を結ぶことをめざすべきだ。そして数十年の時間をかけて、イスラム戦士たちが自分たちの唱えている非西洋的宗教と自分たちが手にしている西洋的武器との矛盾に気づき、その矛盾を自ら仲介するための歴史的学習時間を持たねばならないだろう。西側社会は、それが自分たちもまた同じように経てきた道であることを彼らに分からせ、そして彼らの学習過程を妨げてきたのは、まさに今の先進諸国であることを彼らの前に謙虚に認め、謝罪し、その保障を行う姿勢が必要だろう。その中ではじめて無差別的暴力の力を妄信する人々を孤立させていくことができる。

これは、次の選挙が気になる政治家にはなかなか選択できない長期プロジェクトだが、誰かはその長期的展望を言い続けていく必要がある。宗教は近代社会から価値の多元主義を学ばなければならないし、近代社会は宗教から価値の代替不能性を学ばなければならない。世界宗教にはどこかに「誰とも交換できないあなたの救済のために、救済主(神/預言者/阿弥陀)はみずからの命を賭した」というメッセージが含まれているはずだ。資本主義はあらゆるものの交換可能性によって成立している。だから、「かけがえのないあなた」という代替不能性のメッセージは、資本主義社会の内部からは自己調達しにくい。宗教はこのメッセージによって、今なお現代における価値や意味の源泉のひとつとなっている。資本主義社会は逆に「君の代わりくらい、市場にはいくらでもいる、かけがえのない者になりたければ、自分に商品としての付加価値を付けろ」と人々に言い続けている。今では大学もその先兵役を忠実に果たしており、教員が平気で「品質管理」「付加価値」などという言葉を口にする。こういう資本主義社会で自分の居場所を失い、自らの存在価値を確信できなくなった多くの若者が、イスラム国に自ら志願している事実を、キリスト教圏の人々もまじめに考えてみる必要がある。

その意味で、イスラムはけっして対岸の火でもなければ、自分たちに理解不能な宗教でもない。それがこの問題を長期的に解決するための鍵となる認識だ。

2015年1月30日 (金)

The Hard Problem

まつこです。

風邪をおしてロンドンまで出かけました。熱があろうと、雪が降ろうと、はってでも見に行きたかったのは、トム・ストッパードの新作The Hard Problem

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[テムズ川の寒風が風邪の体にこたえた夜・・・]

でも・・・

9年ぶりのストッパードの新作は、起爆力を欠いて、おとなしく小さくまとまった習作風でした。ニコラス・ハイトナーのナショナル・シアターでの最後の演出ということも重なり、期待が気球のように膨らんでいただけに、ちょっとションボリ。

心とは何か、脳と心はどんな関係か、人間の行動はすべて科学で説明できるのか・・・という、容易には答えの出ない問題がタイトルになっているハード・プロブラム。脳科学研究所に就職した心理学者のヒラリーが、合理的な解明を信じる科学者たちに囲まれながらも、神を信じ、人の善意を信じ続ける・・・という内容。

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[劇場はナショナル・シアターの小劇場The Dorfman(以前のCottesloe)]

複雑に絡みあったシナプスのようなワイヤーのオブジェが青く輝き、バッハの平均律のピアノ曲集の丹精なメロディーが流れる舞台は、数学的な美しさを感じさせます。ですがその舞台で繰り広げられる会話が残念ながらちょっと平板なままで、ストッパードらしい知的なスリルがあまり感じられませんでした。

ヒロインのヒラリーは15歳で妊娠出産して、子供を手放したという過去があることがやがて判明しますが、屈折した心理や人間関係の複雑さも、もうひとつ鮮明に浮かび上がってきません。「偶然」か「奇跡」か、「科学」か「哲学」か、「心身二元論」か「機械的一元論」か・・・というような議論の材料は無数に使われているのに、どれも物足りない。休憩なしの100分という短い劇でした。

チケットは発売と同時に売り切れ、新聞各紙は初日を前に関連記事を掲載し、いやがおうにも期待が高まっていたのですが。今日いっせいに出た劇評にもかなり手厳しいものがまじっていました。新しい才能がなかなか出てきていないイギリス演劇界だけに、大御所ストッパードに大きなインパクトを期待してしまっていたのでしょう。

このささやかな室内劇よりも、私にはプログラムに掲載されていたストッパードとリチャード・ドーキンズの往復書簡の抜粋の方が面白かったです。因果論では説明しきれない人間の行動を描こうとし続けた劇作家と、生命の複雑なふるまいの根源に遺伝子の働きを見ようとした科学者。いっそこの二人を登場人物にした劇を書いたら面白いのではないか、と思いながら夜のロンドンを後にしました。

2015年1月29日 (木)

オニオン・パワー

まつこです。

先週末からこの冬3度めの風邪。今回は熱と咳。やれやれ・・・。

今回はこれで回復をはかっていますーー

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[オニオン・ハニー]

玉ねぎのみじん切りに、マヌカ・ハニーをまぶし、玉ねぎの汁が出るまで時間をおいたものです。

ネットで見つけた民間療法ですが、なんだか効いたような気がします。私はこれを熱いルイボスティーに入れて、玉ねぎごと、飲みました。わりあい速く熱が下がり、今は鼻風邪状態までに回復しています。

玉ねぎにはいろんな力があると信じているのは、児童文学のHolesを読んだからかもしれません。現代と100年前の物語がパラレルに進み、その二つの物語がだんだんうまく結びついていく、よくできた小説です。その二つの物語を結びつけるのが玉ねぎ。医者よりも玉ねぎ。物語の中で何人かの人が玉ねぎで命を救われます。

心優しいけれど、おデブちゃんで気が弱い、さえない少年がたくましく成長していく物語です。わくわくハラハラするストーリー展開で、英語もとても読みやすいので、原文で小説を読んでみたいと思う英語学習者にオススメの一冊です。

2015年1月24日 (土)

The Changeling

まつこです。

木曜日はロンドンまで出かけました。この写真を見て私の行き先がわかった方はロンドン通。

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[セント・ポール大聖堂とテムズ川]

グローブ座の室内劇場サム・ワナメーカー劇場に行ってきました。見たのはトマス・ミドルトンとウィリアム・ローリーの合作『ザ・チェンジリング』。17世紀の初頭に書かれた、流血と狂気のグロテスクな悲劇です。

サム・ワナメーカー劇場は17世紀の室内劇場を再現するという意図で作られた劇場です。照明も当時の雰囲気でろうそくを使います。暗くて、小さな劇場の中で、ユラユラと揺れるろうそくの灯りの下、17世紀の衣装に身を包んだ役者たちが陰惨な悲劇が展開させるのを見ていると、タイム・スリップした気分です。

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[欲望ゆえの罪・・・あとはひたすら破滅への道を歩むヒロイン]

こういう劇場なので、古い戯曲の中から何か新しい意味を引き出すというよりも、「復刻上演」という印象です。役者のセリフ回しもやや古めかしく芝居じみた感じになりがち。その古色蒼然とした舞台に、今回はなぜか「スコットランド訛り」と「ウェールズ訛り」が混じっていました。

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[副筋は喜劇調、知的障害者に扮して人妻に近づく男と、見て見ぬふりする管理人]

ヒロインの求めに応じて殺人を犯してしまう悪人がウェールズ訛りで、知的障害者のふりをして施設に入りそこの奥さんに言い寄る男がスコットランド訛り。演出上の意図というより、その二人を演じた役者がそれぞれウェールズ人、スコットランド人だからということのようです。

ロンドンは世界各地から来ている人たちの様々な訛りの混じった英語が聞こえる都市です。さらに最近は、地方の自治権拡大の動きにともなうように、イギリス各地の訛りを隠さず、堂々と地方訛りで話す人が増えているそうです。それに加えて世代間の言葉遣いの違いもはっきりしています。昔ながらの階級間の言葉遣いの差もまだまだ強く残っています。

英語の多様性についての認識が変化していることを思い出させる上演でした。

2015年1月21日 (水)

Blue Monday

まつこです。

イギリスでは「憂鬱な月曜日」(Blue Monday)とは、1月の第3月曜日のことだそうです。この日が1年で一番気分の下がる日と言われています。「天気が悪い」、「クリスマスにお金を使いすぎて首が回らない」、「新年の決意をもう破ってしまってクヨクヨ」・・・といったことが理由。

「軽く運動し、オメガ3の多い魚を食べ、作り笑いでも良いから笑おう・・・」と、オキシトシンの分泌を促す方法を紹介してBlue Mondayを乗り切ろうという記事もあれば(10 Ways to Banish Monday Blues on the Most Depressing Day of the Year)、「Blue Mondayなんて科学根拠がない」(Is It Really the Most Depressing Day of the Year?, A Depressing Day of Pseudoscience and Humiliation)と主張する記事も見かけました。 

今年の第3月曜日、ケンブリッジではお天気が良かったのですが、今日は鉛色の雲が低くたちこめて、ときどき冷たい雨がシトシトと降る、嫌な天気。確かにこういうお天気だと気分が上がりません。

でも・・・

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[ゴンヴィル・アンド・キーズ・カレッジの中庭で見かけた水仙]

冷たい風の中、カレッジの中庭の芝生に顔を出している水仙の群れを見つけました。これだけでちょっと気分が上向きます。

市場の花屋でも水仙の花がたくさん売られていました。

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[部屋にも水仙を飾ってみました]

水仙の花の香りのする部屋に入ると、ふわりと明るい気分になります。Blue Monday対策として、「水仙の花を部屋に飾る」というのを私は提案したい!

寒いけれど、春は確実に近づいてきています。

2015年1月19日 (月)

初雪

まつこです。

スコットランドやイングランドの北の方では雪が降っています。昨日の朝はケンブリッジでも、サラサラと乾いた白い雪が降ってきました。写真を撮ろうと窓から顔を出したら、中庭をはさんで反対側の部屋の人もカメラをこちらに向けていて、お互いに笑ってしまいました。

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[小道に少しだけ消え残った雪が白く見えます]

雪景色を見てみようと外に出たら、もうやんでいました。

でも薄日が射してきたので、そのまま散歩に。キリッと冷えた空気が気持ちいいので、どんどん歩き続けてCastle Hillまで。丘の上はビュンビュン風が吹いていました。

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[一人で散歩していたイタリア人女性に撮ってもらった写真]

丘を下りて、またトコトコ歩いている間に、雲が割れ、青空が見えてきました。イギリスは風が強くて、雲が速く流れていきます。あっという間に、すっかり晴天。

こちらでは12月あたりから、ところどころで桜の花を見かけます。冬桜なのでしょうが、3月にこちらに到着した時にも同じ木に花が満開に咲いていたように思います。そんなに長く花の季節が続くのかしら・・・?

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[この桜が再び満開になる頃には帰国・・・]

まだまだ寒い冬ですが、お昼近くの太陽の位置が少し高くなって、陽光もわずかに力強くなってきているように思えます。ケンブリッジ滞在もあと少し。一日、一日が大切に思える冬の日です。

2015年1月16日 (金)

空の深さ

まつこです。

大学の講義と同時期に、絵画教室の授業も再開されました。前の学期は鉛筆デッサンが主でしたが、せっかくの機会なので、今学期は水彩画をやってみたいと先生にお願いしました。先生は前と同じイラン人のジャズミ先生です。

小学校や中学校でやったきり、絵筆や絵の具に触ったこともほとんどなかったので、ほぼゼロからの出発です。新しいことを習うと意外な驚きを経験することができます。

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[まだヘタなので、ごく小さくお見せします]

いつも見慣れた風景を描こうと、あれこれ苦心していると、先生がこんなことを教えてくれましたーー

「写真に写っている青空は平板だけれど、人間の目にはもっと深みがあるように見える。カメラでは写せないものが人間の目には見える。写真では表現できないその深みは、絵ならば表せる。

よく空を見てみると、頭上の青空と、地面に近い青空では、色が違う。それは青にピンクの絵の具をわずかに混ぜるとそれを表せる。」

これを聞いて、非常に納得しました。

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[写真よりも、人間の目では空はもっと深く見える。今日のケンブリッジは快晴]

もうひとつ、枝がはびこった茂みを書きあぐねているのを見て、先生がおっしゃったのはーー

「枝をそうやって一本づつ描くのはうまくいかない。人間が作るものは数えられるけれど、葉も草も枝も、自然は数えられないように作る

筆の先だけではなく、筆の腹を使ってみるといい。」

これも納得。人間の知覚や自然のあり方についての深い洞察に加え、それを表現するための技術の初歩を教えてもらったように思います。理念だけ語るのではなく、方法論だけ伝えるのではなく、その両方が結びついているのが素晴らしい。

これ以降、見慣れた空や茂みの風景も少し違って見えてきたような気がします。大げさにいえば、新しい世界に目を開かれた気がします。学ぶことの楽しさを実感しました。

しかし・・・

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[来週の課題はこんな風景。空と地面だけ。色使いでいかに遠近感を表現するかが問題です]

来週は、雲も木もない、「空と大地だけの風景」を描くようにと言われましたして。色だけでいかに空の深みを表現できるかを身につける練習です。難しそう・・・。

2015年1月14日 (水)

The Shoemaker's Holiday

まつこです。

今回、ストラットフォードで見たもう一つの芝居はThe Shoemaker's Holiday(『靴屋の祭日』)という喜劇です。陽気でおしゃべりな靴屋の親方がが、トントン拍子に出世してロンドン市長になり、Shrove Tuesday(ざんげ火曜日)を職人たちの祭日にしたという明るい喜劇、

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[急に財産は増えるし、出世はするし、良いことづくめ。奥さんと抱き合って喜びあう靴屋の親方(写真はすべてRSCのHPより)]

・・・のはずが、見はじめてしばらくすると、あれ、この劇って意外と深刻な内容だったのね、と認識を新たにしました。

生き生きとした職人たちのたくましさや、大人の反対をかわして結ばれる若い恋人たちを描きながらも、その背景にあるのは「戦争」と「階級制度」の残酷さ。シェイクスピアの同時代の作家トマス・デッカー(Thomas Dekker)の原作を書き変えることなく、社会の不公正や権力の横暴といった時代を超えた問題をうまく浮かび上がらせた演出でした。

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[無理やり徴兵され、片足を失い、顔も傷ですっかり変わってしまった職人。ようやく再会できた妻は別の紳士と結婚しようとしていた・・・]

でももちろん笑いもたっぷり満載。貴族の跡取りは、他人は戦場に送り出しておきながら、本人はこっそり軍隊から抜け出して、オランダ人の靴職人に変装し恋愛を成就します。おぼっちゃま君がヘンテコなオランダ語をしゃべるたびに、「調子のいいやつめ・・・」と思いながらついつい笑っちゃう。

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[調子のいいおぼっちゃまはオランダ人靴職人に変装して戦争忌避し、花嫁もゲット]

夫がどんどん出世し市長夫人になった妻は、おばちゃんキャラのまま、衣装だけ女王様のよう。転がりこんできた幸運に、オロオロする一挙手一投足が観客の爆笑を呼びます。

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[馬子にも衣装・・・とはなかなかいかない。着慣れぬ衣装で笑いを呼ぶおかみさん]

笑いと深刻さ、その明暗コントラストのはっきりした喜劇でした。古い時代の衣装と古い時代の言葉をそのまま使いながら、時代を超えた問題性を新しく浮かび上がらせたところにおもしろさがあります。安定感と刺激のある、いかにもRSCらしい舞台でした。

今回でこの1年のストラットフォードでの観劇も終了です。全部で11本。好き嫌いはありますが、どれもしっかりとしたプロダクションでした。

RSCのホームページを見ると1年毎の収支状況が円グラフでわかりやすく表示されています。RSCはアーツ・カウンシルを通して、年間1570万ポンド(30億円弱)の補助金を受けています。補助金が収入全体の26%です。イギリスも国家財政が厳しい折、芸術分野の補助金も大きくカットされており、RSCへの配分も6〜7%の削減がすでに決定されています。

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[アンサンブルの良さもRSCの魅力のひとつ]

それでもなお、RSCはコヴェント・ガーデンのオペラハウスやナショナル・シアターなどとともに、もっとも厚い補助金に支えられて活動をしています。決してラクな財政ではないと思うのですが、今年見た11本はどれも装置、衣装、音楽、役者の数など、ケチケチしていない印象でした。

ただそのせいなのか、スリルはあまり感じられませんでした。最初から最後まで、安心して見ていられる芝居ばかり。欲を言えば、もうちょっととんがった批判精神があってもいいのではないかと・・・。不透明な時代にあって、伝統の中から、ラディカルなものを生み出す、そんな鋭い創造力のある次世代の演出家や役者を、この箱庭のようにきれいな観光地ストラットフォードで見てみたい。ないものねだりではあるけれど。そんなふうに思いながら、5回目の帰路につきました。

2015年1月12日 (月)

The Christmas Truce

まつこです。

今回、ストラットフォードで見た芝居の一つはThe Christmas Truce(『クリスマス休戦』)。1914年、第一次世界大戦のさなか、塹壕を掘って向かいあうイギリス軍とドイツ軍が、クリスマスに自主的に戦いをやめ、ともにキャロルを歌い、サッカーに興じたというエピソードを描いた新作です。

第1次世界大戦の開戦から100年目を記念するシーズンのレパートリーは、いずれもRSCの地元ウォリックシャーと戯曲を関連させた演出でした。今回の劇もウォリックシャーの部隊の前線での経験を描いています。

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[夏の日差しの中でクリケットを楽しんでいた青年たちが、直後、出征していくことになります(写真はいずれもRSCのHPより)]

夏、田園風景の中でクリケットに興じていた青年たちが、塹壕の中で冬の厳しい寒さに耐える。夏祭りの楽しい歓声は、激しい銃声に変わる。クリケットでアウトになったプレーヤーがフィールドから消えていくように、銃火に倒れた兵士は戦場から姿を消す。その対照的な場面を、はしごや椅子など両方で同じ小道具を使いながら表現するうまい演出でした。

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[塹壕の過酷さをシンプルな舞台装置でうまく表現していました]

さらに地元出身のブルース・バーンズファザー(Bruce Bairnsfather)という漫画家に焦点を当てることで、新しい視点が加わります。ストラットフォード出身のバーンズファザーは、塹壕の中で描いたスケッチを雑誌に投稿したことがきっかけで漫画家となりました。立派なヒゲをたくわえたビル(Old Bill)という愉快なキャラクターを作り出して国民的人気を得ました。ウォリックシャーの部隊の中には、このビルのモデルになるリーダー格の親父さんもいます。バーンズファザーのよく知られた挿絵どおり、戦場で散髪をする場面もあります。

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[これがストラットフォード出身の漫画家バーンズファザーの描いたOld Bill。劇場内でバーンズファザーに関する特別展示もしていて、前線でスケッチをした実物のノートのなども見れました]

このバーンズファザーがクリスマス休戦の時に、なかなかドイツ兵と握手ができない、という心理的屈託がこの劇の一つのポイントになっていました。クリスマス休戦は心温まるエピソードではあるけれど、やはり仲間を殺された敵同士であるという現実は重く、休戦はごく短い時間で終わってしまう。

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[イギリス兵とドイツ兵がともに歌い、ともにサッカーに興じたクリスマス休戦は、ほんのつかのま。すぐにまた砲声がとどろきはじめます]

こうした苦い思いも交えながら、英語とドイツ語のクリスマス・キャロルの数々が混じり合って劇場に広がる時には、やはりクリスマスを祝う気持ちに満たされます。戦争をテーマとしながらも、家族で楽しめる作品にしあがっていました。

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[最後にようやく心を開いて握手をすることができたバーンズファザー]

追記:このクリスマス休戦の物語は、これまでもミュージカルや映画にも繰り返し使われてきました。今シーズンは、スーパーマーケットのセインズベリーもこの物語を使って、クリスマス用コマーシャルを作りました。このコマーシャルもなかなか良くできています。



「クイズ その5」のこたえ
第1問:Susanna, Hall's Croft
第2問:Hamlet
第3問:The Winter's Tale, Antigonus

2015年1月11日 (日)

クイズ その5

まつこです。

(ごく一部の方に)ご好評いただいたストラットフォード・クイズも今回で最終回です。

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[ストラットフォードも冬枯れた景色ですが、今回もお天気に恵まれました]

ではさっそくクエスチョン。

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[この邸宅は?]

シェイクスピアの眠るホーリー・トリニティ教会の近くにある立派な邸宅。ここはシェイクスピアの長女が結婚して住んでいた家です。この長女の名前はなんでしょう。またこの邸宅の名前はなんでしょう。

医者と結婚したシェイクスピアの長女ですが、浮気をしていると汚名を着せられ、名誉毀損で裁判をおこしたことがあります。その経緯を描いた芝居The Herbal Bedが1996年に書かれました。浮気相手とされた男はジョゼフ・ファインズ、浮気をしていると訴えた男はデイヴィッド・テナントが演じました。

第2問目。

ロンドンのウェスト・エンドでロングランとなり、ニューヨークでも上演されたプロダクションですが、もともとはストラットフォードの一番小さな劇場The Other Placeで初演されました。

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[かつてThe Other Placeがあった場所。この青い部分に名残がありますが、昔は倉庫みたいな殺風景な建物でした]

1974年、予算のなかった時代にリハーサル・ルームを転用したこの劇場The Other Placeは、数々の意欲的な上演がなされた小劇場です。このThe Other Placeという劇場名はシェイクスピアの戯曲から取られています。その戯曲はなんでしょう?

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[The Other Placeの新プラン検討をつげる掲示]

このThe Other Placeは大劇場の改築にともない、仮設劇場が作られたため際に閉鎖されてしまいました。ですが再度、多目的施設としての再開が検討されているようです。立派な施設になるのかもしれませんが、昔の倉庫みたいな空間がちょっと懐かしいです。

ではストラットフォード・クイズ、最後の出題です。第3問目。

RSCの大劇場の廊下の奥の片隅にはこんなのがいます!

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[足元には「餌をやらないでください」と書かれています]

シェイクスピアの戯曲でクマが登場するのはなんでしょうか。またそのクマに食べられちゃう登場人物の名前はなんでしょうか。

さあ、全問正解できたかな?

1泊して見てきた2本の芝居については明日以降にレポートします。

2015年1月 8日 (木)

風邪をひいたら・・・

まつこです。

知人、友人が次々と風邪をひいたと思ったら、私もひいてしまいました。今週はイギリス全土で風邪の罹患リスクが高まっていて、人口の15%くらいの人が風邪でダウンするという予測もなされています。クリスマスから新年にかけてのパーティ続きで体力が落ちているところに寒波がきたのが、風邪の蔓延の原因とのこと。

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[早く良くなりたい一心でネットで見たあらゆる民間療法を試してみました。生姜はちみつ入りホットレモネード、背中にホカロン、パジャマの上から襟巻き・・・「玉ねぎスライスを枕元に置く」というのもあったので実践。鼻づまり防止になるらしいです]

医者に行くよりも、水分を取って、安静にしている方が風邪の回復には効果的。それにただでさえ予算不足、人手不足のNHSに、風邪くらいで負担を増やすわけにはいきません。

今年はイギリスは総選挙の年。2011年に成立した法律で、今回から女王の解散権はなくなり、5年の固定任期で選挙日程が早くに決まっているため、選挙戦が長くなっています。すでに昨秋から盛り上がっているのですが、年が明けてますますにぎやかになってきました。議論の中心は「移民」と「NHS」

今日の国会のPrime Minister's Quesiton Time(水曜日の首相への質問時間)でも、NHSの病院の救急外来での待ち時間の統計調査の結果がこれまでの最悪であったことが問題になりました。労働党のミリバンドが「患者に対する政府の裏切り行為だ」と避難すれば、首相キャメロンは「労働党はNHSを政治ゲームのボールとして利用している」と逆襲。

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[11月にNHSから届いた乳がん検診のお知らせ]

NHSの改革はとても困難なことのようですし、今年の選挙結果も誰にも予想できないと言われていますが、短期在住者の実感として「イギリスの医療制度は外国人に対してちょっと親切すぎるのでは」という気がします。

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[12月には子宮がん検診のお知らせ]

11月に「乳がん検診」の通知が私にも届いたのですが、行かずにいると再度、受診を促す通知が届きました。12月には「子宮がん検診」の通知も届きました。がん検診の費用はもちろん、こうした通知のための事務費用もかなりかかるはず。NHSの制度の素晴らしさの一面かもしれませんが、短期滞在の外国人にまでこんな手厚い医療サービスを提供していたら財政破綻は必定なのでは?

鋭い言葉の応酬で"Punch and Judy politics"(人形劇の「パンチとジュディ」のような派手なドタバタ)とも揶揄されるイギリスの政治家の議論ですが、医療の現場では選挙戦のことなど気にする余裕もなく、忙しい日々が続いているのだろうなあと、生姜とハチミツたっぷりのホットレモネードを飲みながら思うのでした。

2015年1月 6日 (火)

歌舞伎フェイス・パック

まつこです。

出張で日本に行ってきたYちゃんからもらったクリスマス・プレゼントはこれ!

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[Kabuki Face Pack、もらった日にさっそく青いほうのを使いました]

歌舞伎のくまどりをデザインしたマスクです。

こちらでは戸外に出ると雨や霧で湿度があるのですが、屋内はオイル・ヒーターが効いているため、かなり乾燥しています。肌の水分不足がちょっと気になっているところでした。

クリスマスの日にもらって、その晩Downton Abbeyのクリスマス・スペシャル見ながら、さっそくこのマスクでお手入れ。

その数日後、Mさんと忘年会したとき、「まつこさん、今日、肌の調子いいですね〜」とほめられました。ヒアルロン酸やコラーゲンがたっぷりのこのマスクをしたまま、長時間、ドラマに見入っていたのが功を奏したようです。

ただし・・・

マスクしながらセルフィしてみましたが・・・

自分で見ても怖い!

怖いけど面白い!

クリスマスの夜、一人で大笑いしてしまいました。

2015年1月 4日 (日)

ウサギの穴に注意!

まつこです。

今日は正午を過ぎてもまったく霧が消えません。濃霧の幻想的な景色にひかれ、寒さの中、散歩に出かけてみました。

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[芝生を歩く時にはウサギの穴にご注意ください(rabbitのtが1個多い)]

キャベンディッシュ研究所の中庭の柳の木の幹に、ウサギの穴に注意せよという注意書きが貼られていました。ウサギの穴に落ちたら「不思議の国アリス」みたいになっちゃう・・・と、とっさに思ったけれど、ウサギのために注意しろ、という意図でしょうね、当然。

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[柳の枝も芝生も白く凍りついています]

今日は正午時点でもケンブリッジの観測気温は零下2度。ここは街はずれなのでたぶんもう少し低いはず。

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[牛も凍った草は食べられないので、干し草のところに集まっていました]

コンクリートやアスファルトの道もツルツルと凍っています。水たまりの氷を、子供のように踏んで割ってみようとしましたが、厚くて割れませんでした。

今年のクリスマス休暇の最終日はとても寒い日曜日です。

2015年1月 2日 (金)

The Theory of Everything

まつこです。

スティーブン・ホーキング博士の若き日々を描いた映画The Theory of Everythingが、イギリスでは1月1日に公開されました。カレッジや街頭で撮影もされているので地元ケンブリッジではちょっとした話題になっています。Yちゃん、Mくんに誘われ、公開初日に観に行ってきました。

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[自転車でさっそうと街を走り抜けいていた若き日々]

難病を抱えながら宇宙についての新しい理論を生み出したホーキング博士の人生を描いた映画です。でも闘病の苦労や、恋愛や、家族といった私生活だけではなく、「時」や「神」という大きな問題を問う哲学的視点も重要なテーマになっています。

病気が進行し声を発することができなくなると、ホーキング博士の意思は機械で作られた音声で伝えられるようになります。でもその人工的な声(「なんでアメリカ英語なの?」と奥さんが技術者に不満をもらす場面で会場は笑いに包まれました)が、ほんとうにホーキング博士の心の奥の思いを伝えているのかどうかはわかりません。

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[家族がどれほどの愛情で支えようと、病気は残酷に進行していきます。]

数式で証明できる真理を追い求める科学者が、一方で奇跡を祈ったことはなかったのか?健康だった若い日々に戻りたいと願ったことはなかったのか?宇宙の始まりが私たちにとって謎であるように、博士の心の奥底もまた決して知り得ぬ神秘なのだと教えてくれる映画でした。

でも決して重苦しい映画ではありません。シャープなユーモアのセンスを決して失わないホーキング博士のチャーミングな人柄も描かれています。見知らぬ人に「ホーキング博士ですか?」と声をかけられると、ホーキング博士は「いえ、本物はもっとかっこいいですよ」と答えるそうです。

ホーキング博士を演じたエディ・レッドメインの演技も素晴らしかったけれど、もしもケンブリッジでご本人を見かけたら、「やっぱり本物はかっこいいですね」と声をかけようと、一緒に見たYちゃんは言っていました。

2015年1月 1日 (木)

あけましておめでとうございます

ウメマツです。

あけましておめでとうございます。

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[風の強いケンブリッジの冬]

2014年は二人ともサバティカル(研究休暇)で、いったん職場を離れました。どちらかというと出不精なうめぞうが、何度も東京とケンブリッジを行き来し、いつもバタバタと動き回っていた私が、ケンブリッジでじっくりとした時間を過ごしました。2015年は、この充電期間に吸収したものを、若い学生たちに還元する年にしなければ、と思っています。

希望の光が見えにくくなっている世相ではありますが、身近な人たちと喜びや苦労を分かち合いながら、少しでも安心できる社会を作っていきたいものです。

2015年が良い年となりますよう!

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