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2014年10月

2014年10月29日 (水)

Japanese Maple

まつこです。

昨日、今日と続けて、とてもお天気の良い暖かな日でした。図書館の入り口の横にあるメイプルの紅葉が青空に映えて、薄暗い図書館に入って過ごすのがもったいないと感じられるほどです。

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[今日は良いお天気の一日でした]

先週の日曜日の朝のテレビ(Andrew Marr Show)に作家のクライブ・ジェイムズ(Clive James)が登場しました。自作の詩を書斎で朗読している様子が流されました。"Japanese Maple"(楓)という題の詩です。

ジェイムズはオーストラリア出身でイギリスのメディアで活躍している作家・評論家です。ずっと前に「スズキ・アキラ」というヘンテコな日本人が登場する小説も書いている日本通です(日本語もできるらしい)。アクティブなイメージが強かったのですが、4年前に白血病と診断され、最近では自らの死についてしばしば語るようになっていました。

日曜日の朝、テレビから流れた詩は、秋の美しさと人生の終わりを見定めた心の静けさが、率直な言葉で表現されていました。

今朝の青空の下で、秋の最後の美しい風景を見たら、この詩のことを思い出しました。

Japanese Maple

Your death, near now, is of an easy sort.
So slow a fading out brings no real pain.
Breath growing short
Is just uncomfortable. You feel the drain
Of energy, but thought and sight remain:

Enhanced, in fact. When did you ever see
So much sweet beauty as when fine rain falls
On that small tree
And saturates your brick back garden walls,
So many Amber Rooms and mirror halls?

Ever more lavish as the dusk descends
This glistening illuminates the air.
It never ends.
Whenever the rain comes it will be there,
Beyond my time, but now I take my share.

My daughter’s choice, the maple tree is new.
Come autumn and its leaves will turn to flame.
What I must do
Is live to see that. That will end the game
For me, though life continues all the same:

Filling the double doors to bathe my eyes,
A final flood of colors will live on
As my mind dies,
Burned by my vision of a world that shone
So brightly at the last, and then was gone.

そこに迫る死は穏やかなもの。
ゆっくりと消えて行くときに苦痛はない。
次第に短くなる呼吸が
少し苦しいだけ。身体からだんだん
力がなくなっているけれど、思考も視覚も残っている。

いや、むしろ鋭くなっている。細やかな雨が
あの小さな木に降るのを見て、
これほど美しいと思ったことはなかった。
裏庭のレンガの塀を濡らすのを見て
琥珀の間と鏡の間がこれほど無数に見えたこともなかった。

夕暮れが迫るにつれ、より豊かに
きらめきが空気を満たす。
これはなくならない。
雨が降るたびにこの風景がここで見られるはずだ。
私の時間が尽きた後も。だが今私は与えられたものを見ている。

娘が選んだ木、この楓はまだ植えたばかり。
秋来たらば、その葉は炎の色になるだろう。
私は必ずや
生きてそれを見なければ。そして私にとっての
試合は終わる。だが生命はそれでも続いていく。

両方に大きく開いた扉いっぱいに私の目に入ってきた
あの最後の色の洪水は生き続け
私の意識は死んで行く
目に映った光景に焼き尽くされながら
世界は最後にこれほど鮮やかに輝き、そして消えて行った。

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[今朝の風景]

詩の訳は難しいですね。前半は"you"読者に対する呼びかけの形をとっていて、後半は"I"自分の人生の終わりが語られているのですが、その訳し分けは十分にできませんでした。

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[今日の夕方、同じ場所で。まだ5時くらいですが細い月が出ています]

美しい秋の日を惜しむ気持ちが、人生の限られた時間を尊ぶ思いにつながります。そう思いながらひんやりとした空気を吸い込んだ秋の日でした。

2014年10月26日 (日)

サマータイム終了

まつこです。

昨日から今日にかけての夜の間に、サマータイムが終了しました。パソコンやスマホは自動的に調整されています。給湯器やヒーターのタイマーと腕時計は手で1時間、遅らせました。

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[冬近し。ブラックベリーもこれで食べ納め]

この秋は例年にない暖かさだそうです。でも、夏の終わりから秋にかけて美味しかったブラックベリーももうおしまい。一昨日、めずらしくスーパーで見かけたので、今年最後と思って買ってきました。

「まずい」と評判の良くないイギリスの食事ですが、食材は悪くはありません。野菜の味は濃く、お肉やお魚も大きなカットで売っていて、料理の楽しみの幅が広がります。円安とイギリスのインフレで全体に物価高を実感しますが、フレッシュなベリー類などは比較的安く、種類豊富です。生のラズベリーやブラックベリーは日本で売っているところは少ないので、今年のうちにたっぷり食べておきました。

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[ヤギのチーズとビーツの水煮。この日はそこにラディッシュも合わせてみました]

日本にもあれば良いのに・・・と思う食材のもうひとつは「ビーツの水煮(cooked beetroot」です。日本には缶詰のは見かけますが、こちらのスーパーでは少量パックで売っていて、手軽で使いやすいです。

このビーツの水煮を適当な大きさにカットして、同じような大きさのヤギのチーズと合わせると、なかなかおいしいサラダになります。さらに桃などの果物も合わせてもいけます。

野菜や果物をたっぷり食べて免疫力アップで冬に立ち向かいたいと思っています。

2014年10月22日 (水)

ハリケーン・ゴンザーロ

まつこです。

台風一過の青空です!

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[トリニティ・カレッジの正面。昨日の嵐ですっかり葉が落ちています]

イギリスに台風なんかないのかと思っていたら、フロリダ沖で発生したハリケーンが、大西洋を北上してイギリスまで到達することが、時々あるのですね。今回はハリケーン・ゴンザーロ(Hurricane Gonzalo)。

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[ゴンザーロの進路。図はオンライン版のMirrorより]

イギリスに達した時点で「ハリケーン」とは呼ばれず「元ハリケーン(ex-hurricane)」と呼ばれていました。

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[台風が過ぎ去ったあとの景色は清々しい]

8月にも同じようなコースでハリケーンが来ましたが、そのときの名前は「ハリケーン・バーサ(Hurricane Bertha)」。

大西洋で発生するハリケーンについては、毎年アルファベット順にAから名前がつけられるようです。バーサ(Bertha)は2個目、ゴンザーロ(Gonzalo)は7つ目です。別に女の人やメキシコ人みたいな名前ばかりではなく、ひとつ目にArthur、3つ目にChrisというようなのもあるし、年ごとに変わるのだそうです。

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[昨日は猛烈な風で柳の枝は吹き流しのように真横になっていました。一夜明けたら別の景色・・・でも急に寒くなりました]

昨日は猛烈な嵐の中、自転車はムリだったので、バスにのって絵画教室に行きました。一緒の教室の生徒さんに、日本ではハリケーンをどんなふうに呼ぶのかと聞かれたので、番号つけるだけと答えたら、「あら、つまんないわね」というようなことを言われました。台風やハリケーンというのは、ちょっと不謹慎ですが、わくわくするスリルもあるので、人名を与えた方が悪役としてイメージが鮮明になるのだと思います。

絵画教室は1回ごとに与えられる課題が地味になり、今回は「遠近法」の練習。できるだけ数学的な形の物(立方体、円柱など)を持って来るようにと言われていたのを朝になって思い出し、とっさに目の前にあったオードトワレ(Chloe)のビンとマスカラ(Clinique)を持って行きました。

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[第3回目の成果はきわめて地味]

Eye levelとかvanishing pointについて説明してもらって、補助線みたいのを引きながら、いろんな角度でクロエのトワレのビンを描く・・・。「つまらないかもしれないけれど、このトレーニングはあとで役に立つ」と先生はおっしゃっています。もうちょっとこの基礎練習で我慢します。

2014年10月16日 (木)

While the Sun Shines...

まつこです。

久しぶりに見たお日様と青空。気持ちいい!

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[ケム川でパントを楽しむ人の数もすっかり減りました]

お天気の良いうちに急いでお買い物。今日、欲しかったのは携帯用ソーイング・セット。毎日、黒いタートルネックのセーターばかり着ていたら、ほつれちゃったのです。(こちらで買うものは縫製が悪い。)どこかのホテルでもらったソーイング・キットがあったはずなのにどうしても見つからないし、自宅から持ってきたのも見つからない。

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[たまたまセールで安くなっていてラッキー]

Mid Season SalesをやっていたCath Kidstonでトラベル・ソーイング・キットを購入。

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[中身はこんな]

Thread Plaitという色とりどりの糸をゆるく編んだものから、必要な色の糸を抜き取って使います。指ぬきとか巻き尺とかは旅先では使わない気もするけど。

それにしても黒いセーターに黒い糸、老眼の身にはちときびしい・・・。イギリスの部屋は照明が日本に比べて暗いので、お日様が出て明るいうちにやってしまいましょう。窓辺でポカポカと日に当たりながら繕いものをすれば、気分はすっかりgranny(おばあちゃん)です。

そういえば「まつこ、針に糸、通してちょうだい」と頼まれたことが何度もあったな・・・と、その昔、祖母や母が繕いものしていた姿を、ふと思い出したひとときでした。

2014年10月14日 (火)

モノトーン

まつこです。

9月のイギリスは記録的に雨が少なく、好天続きでしたが、10月も半ば、いよいよ晩秋らしいくら〜いお天気になってきました。

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[雨のケンブリッジ。夕刻に見えますが、これで午前11時]

石造りの街に、黒っぽいアノラックやコートの人がほとんど。空も灰色で重く垂れ込めています。景色全体がモノトーン。

今日は、絵画教室の2回目。先日買った水彩画の教本を家でパラパラと眺め、色の混ぜ方とかぼかし方の予習をしてから出かけました。

しかし・・・

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[マルメロの実を描いたつもり]

「今日は鉛筆だけで光と影を描き分ける練習をしなさい」と先生に言われ、デッサンの練習のみ。最初はペインティングはせず、ドローイングだけで光をとらえられるようになった方が良いという指導方針なのだそうです。

雨で静かな晩秋の一日、じっくりモノトーンの時間が流れています。

2014年10月12日 (日)

五里霧中

まつこです。

朝起きて外を見ると・・・何も見えない!

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[獣医学部のパドックの馬は霧の中でも平気で草をムシャムシャ食べています]

朝は霧の日が増えています。今朝は特に濃い霧におおわれました。

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[宿舎の裏。池に落ちないように要注意]

霧の中を歩いていたら、突然、犬が突進してきました。数メートルほどのところで私に気づき急ブレーキ。深い霧の中での出会い頭、犬のびっくりした顔が面白かったです。やがて飼い主も霧の中から登場。

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[いつも見慣れた風景も幻想的]

まるで舞台のスモークの中みたいな日曜の朝でした。

2014年10月11日 (土)

超ビギナー

まつこです。

秋分の日を過ぎて、緯度の高いイギリスでは、毎日、約8分ずつ日照時間が短くなります。1月、2月は、イギリス人の10人に一人が季節性ウツになるという統計もあります。(12月まではクリスマスが楽しみなのでまだ気持ちが明るいのだそうです。祝祭が終わった後があぶないらしいです。)

晩秋から冬をどう過ごすかは大問題。そこで屋内でも楽しめることを始めてみました。

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[Absolute Biginner(超ビギーナー)のための入門書]

水彩画です。

中学校の美術の時間以来、40年近く絵筆を持ったこともありませんでした。でも今始めれば、老後の楽しみになるかもしれません。

というわけで、地元の教会セント・マークス付属のコミュニティ・センターのクラスに入れてもらいました。イラン人の先生が指導してくださいます。生徒は高齢者がほとんど。

在外研究のための出張期間なのに、平日の昼間、こんなことしていていいのかなと、チラリと思いましたが、「地域社会における生涯教育の実情視察」ということで・・・。

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[第1回目の作品。恥ずかしいので小さな写真でお見せします]

この年齢になって始める趣味は、うまい、下手ではなく、楽しむことが大切。細く長く楽しみたいと思います。

2014年10月 9日 (木)

映画『プライド』

まつこです。

「1984年」はどんな年だったか覚えていますか?

カルチャー・クラブの「カーマは気まぐれ」がヒットした年です。これで鮮やかに記憶がよみがえった人は、中年まっただなか。イギリスではサッチャー政権下、大規模な炭坑ストライキが行われたのが、1984年です。

サッチャーVS労働組合、どちらを支持するかは、はっきりとした二者択一でした。マギーかトニー・ベンか?保守党か労働党か?右か左か?今日の混迷した政治状況に比べれば、はるかにわかりやすい時代でもありました。

この時代を背景にしたイギリス映画には、これまでも『フル・モンティ』、『ブラス』、『リトル・ダンサー』などの佳作があります。さらにもうひとつ、とても面白い映画が新作の『プライド』(Pride)です。

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[同性愛者と炭坑労働者を描いた映画『プライド』]

同性愛者と炭坑労働者、一見、なんの関係もなさそう。むしろマッチョな炭坑労働者の人たちは同性愛者に対する偏見が強そう。でも、もしもゲイ・レズビアンの人たちが炭坑労働者の支援活動をしたらどうなるか。その顛末を、笑いと涙で描いたのがこの新作映画『プライド』です。

奇想天外の設定に思えますが、実は実際にあったLGSM(Lesbians and Gays Support the Miners)というキャンペーンにもとづく映画です。ゲイ・レズビアンの人たちが、権力への抵抗のために連帯しようと炭坑労働者組合に支援を申し出るのですが、全国組織の組合は同性愛者からの協力を受けることを躊躇します。やむなくゲイ・レズビアンのグループは、ウェールズの小さな町の組合に協力を申し出る・・・。

ウェールズの美しい風景、小さな炭坑町に暮らす実直な労働者やその妻たち、ウェールズなまりの英語や心洗われるメロディ。いっぽう、ゲイの人たちはロンドンのナイトクラブで歌い踊り、アウトサイダーとしての自由を謳歌しながら、社会から阻害される孤独や家族との緊張やエイズへの恐怖を抱えて生きている。

こうしたたくさんの要素を、監督のマシュー・ウォーカスは生き生きとしたテンポの良い物語にまとめあげていました。ビル・ナイー、イメルダ・ストーントン、ドミニク・ウェストら、芸達者な役者たちの演技も、大げさにならず、いぶし銀のように光っています。

涙と笑いがたっぷりつまった2時間。今日、私が見に行ったケンブリッジの映画館には、10数人しか観客がいませんでしたが、終わった瞬間、この10数人が盛大な拍手を送りました。私は大笑いしながら見て、最後は涙ボロボロ。ぜひ日本でも公開してもらいたい映画です。

2014年10月 7日 (火)

マルメロ

まつこです。

信仰心が特別厚いというわけではないのですが、土曜日と日曜日は続けて教会に行きました。土曜日はキングズ・カレッジのチャペルの晩祷(Evensong)に参加。こちらは聖歌隊の歌は現代音楽でしたが、それ以外はアングリカンの伝統的な儀式にのっとった礼拝でした。

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[ハーベスト・フェスティヴァルの礼拝に行ってきました]

日曜日は、ニューナムのセント・マークス教会に。この日は収穫を祝う礼拝(Harvest Festival Service)。いつものトムとジュディと一緒です。

イギリスでは、移民のポーランドの人たちの集まるカトリック教会や、ムスリムの人たちのモスクは多くの人が集まるのですが、それに比べてアングリカンの教会はどこも礼拝に来る人たちがとても少なくなっています。なんとか地元の教会員の人たちに来てもらおうと、いろいろな工夫が試みられているようです。

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[礼拝のあとは持ち寄ったものでランチ・パーティ。フィンガー・フードを持ってくるようにと言われて、私が用意していったのはこんなもの]

セント・マークス教会のこの日の収穫祝いの礼拝も、ゲームや子供たちの寸劇などを取り入れて、楽しい礼拝にしよういう意図がはっきりしていました。古めかしい言葉が使われている昔ながらのお祈りの文言を現代風に変えたり、聖歌もポップな曲に変えたりしています。

でもこういう試みが必ずしも功を奏しているわけではないようで、トムやジュディは子供の頃からなじんで暗誦している祈祷の言葉や聖歌がない礼拝は魅力を感じないため、かえって教会から足が遠のいてしまったと言っています。

この日、礼拝に取り込まれていたゲームは収穫の祝いに合わせて、作物の名前を使ったゲームでした。アルファベットのそれぞれ文字で始まる農作物を、ひとつひとつ増やしていき、それをアルファベットの逆の順に繰り返すというものです。Apple, Banana, Cabbage, Date, Egg, Fromage Frais, Gherkin, Honey...。このリストを少しずつ伸ばしていって、それを逆から言うのです。(ちょっと記憶力をためす、認知症予防のトレーニングのようでした。)

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[トムとジュディの庭も枯葉が落ち始めすっかり秋の雰囲気です]

Qのところで選ばれたのはQuince。あれ、Quinceってなんだったっけ・・・?ジュディに聞いたら、「うちの庭にちょうどなっているわ。帰ったら教えてあげる」。

というわけで教会から帰ったあと、トムとジュディの家の庭でQuinceの実を見せてもらいました。「マルメロ」でした。これを刻んで煮て、布でドリップさせて、その汁をお砂糖を入れて煮るとゼリーになるのだそうです。ジュディの庭にはたくさんのマルメロの実がなっていますが、「ゼリーは手間がかかるからやらないわ・・・」と笑っていました。

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[いつもいろんなことを教えてくれるジュディ]

1個もらってきたマルメロの実。ひとつだけで部屋の中に甘〜い香りがいっぱいにただよっています。

2014年10月 4日 (土)

ジャック・アロイシアス・メリーソート

まつこです。

先日観た『恋の骨折り損』では、貴族の青年の一人ドュメインが、テディ・ベアを抱えて恋のため息をついていました。それを見たらどうしても欲しくなり、翌朝、ストラットフォードのシェイクスピアの生家の近くにあるテディ・ベア屋さんへ・・・。

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[Jack Aloysius Merrythoughtと名付けました]

「新しく始まった『恋の骨折り損』でテディ・ベアが使われていたので欲しくなって来ました。これから私みたいにテディ・ベア買いに来る人増えるかもしれませんよ」と話したら、店主が多いに喜び、熊選びを熱心に手伝ってくれました。

この店主に勧められたのが英国メーカー、メリーソート社のテディ・ベアです。途上国の安い製品が入ってきたため、イギリスのぬいぐるみメーカーは軒並みつぶれてしまったのだそうですが、このメリーソーと1社だけが昔ながらの手作りで国内生産を続けているのだそうです。

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[Merrythoughtとはwishbone(鳥の鎖骨)を意味する古い英語です]

1993年のイアン・ジャッジの演出でも、オックスフォードの学寮に入学する貴族の青年の荷物の中にテディ・ベアがありました。

その印象と重なるのがイヴリン・ウォーの小説『ブライズヘッドふたたび』に出てくるアロイシアスです。厳格なカトリック信者の母親から十分な愛情を得られなかった貴公子セバスティアンは、オックスフォード大学で酒に溺れる生活をしながら、テディ・ベアのアロイシアスを常に連れて歩いています。

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[1981年のテレビ・シリーズBrideshead Revisited。詠嘆調の美しい英語と美しい風景がたっぷり堪能できます]

ジェレミー・アイアンズとアントニー・アンドリューズが美しい英国青年を演じた1981年のテレビ・シリーズの『ブライズヘッドふたたび』は、テディ・ベア人気の復活のきっかけになったとも言われています。

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[若き日のJeremy Ironsの美しさもたっぷり堪能できます]

イギリスの上流階級の子弟は、乳幼児期はナニーに育てられ、そのあと寄宿学校に入れられてしまうので、母親の愛情に飢え、その代償としてテディ・ベアに愛着するという説もあるようです。貴公子たちの胸のうちの、寂しさやかなわぬ恋の辛さを、イギリスのテディ・ベアたちは長年にわたって受け止めてきたのかもしれません。

我が家のこのテディ・ベアは「ジャックはジルとは結ばれていない」"Jack hath not Jill"という『恋の骨折り損』の最後の台詞からとって、ジャックと名付けました。由緒正しくミドル・ネームはアロイシアス。ラスト・ネームはメリーソート。

ジャック・アロイシアス・メリーソートです。これからもよろしく。

2014年10月 2日 (木)

『白い悪魔』と『女番長』

まつこです。

ストラットフォード・アポン・エイヴォンのスワン座では、今年、女性の活躍する戯曲をシリーズで上演しています。今回、見たのは『白い悪魔(The White Devil)』と『女番長(The Roaring Girl)』の2本。両方ともシェイクスピアと同時代の劇作家の作品ですが、それぞれ異なった時代に設定を移しています。

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[The White Devilの悪役フラミーニオが今回は女性という設定]

『白い悪魔』は現代のイタリアに設定。幕開け、ヒロイン、ヴィットリアのあられもない下着姿の登場でドキリ。プラチナ・ブロンドのかつらをかぶり、セクシーなゴールドと黒の超ミニのワンピースを身にまとうところから始まります。

貧しい家庭に生まれた女が、「性を強調」することによって、したたかに生き延びていくという解釈です。原作ではヴィットリアの兄という設定の悪人フラミーニオを、女優に演じさせたのも今回の上演の特徴です。こちらは痩せた身体の女が男装をまとい、「性を消す」ことによって社会の階段を這い上がろうとします。

腐敗した権力のはびこる男社会で、二人の姉妹は、女性性を過度に主張するか完全に抹消するか、いずれかでしか生きていくことはできない。このメッセージは明快です。舞台デザインもスタイリッシュでかっこいい。役者もうまい。

しかし・・・

暴力とセックスだらけの舞台は、そう、ドラッグにまみれた世界のよう(経験ないけど、たぶんこんな感じ)。観客の共感などいらない、と突っぱねられたような気分の悲劇でした。

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[今回のThe Roaring GirlのMollはK.D. Langみたいにかっこいいが・・・]

同じ日に喜劇の『女番長』。こちらは男装した女スリが、弱きを助け強きをくじく活躍ぶりを発揮する喜劇です。シェイクスピアの時代に実在したこの女怪盗が登場する劇を、今回はヴィクトリア朝後期に設定していました。

こちらも意図はわかります。ヴィクトリア朝のとりすました紳士たちの偽善や、裕福な若者たちの薄っぺらさを、女怪盗モルの活躍でひっぱがして見せるのが狙いでしょう。

しかし・・・

もともと副筋がゴタゴタとした戯曲なのですが、そのてんこもりの喜劇に音楽がまたてんこもり。ジャズあり、ロックあり、ラップあり。えー、なんで?ヴィクトリア朝じゃなかったの?

モルを演じた女優さんはとても器用な人で、エレキギター抱えてシャウトすることもあれば、コントラバスを抱えてジャズを口ずさむこともあれば、ノリノリでラップで歌う場面もあります。

女怪盗モルの豪放さではなく、この女優さん(Lisa Dillon、本当にうまい!)のクールなかっこよさの方が、印象に残りました。でも喜劇の面白さは、上演の様々な道具立ての中で分かりにくくなったきらいがあります。

いずれも女性演出家が、女性登場人物を通して、女性とは何かを問う、いわゆるフェミニズム・シアターに属する上演ですが、うーん、ちょっと肩に力が入り過ぎたかも。実力派の女性たちが、少し力を抜いて、のびのびと活躍できるような時代は、もう少し先なのかな・・・と思った一日でした。

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