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2014年6月16日 (月)

暴走老人の涙:『ヘンリ四世』

まつこです。

お天気の良い、日曜日、ストラットフォードには家族連れがたくさん遊びに来ていました。劇場の観客は最近、高齢化が著しのですが、この日は若い人たちも客席に目立ちました。この日は『ヘンリー四世』の二部作を昼、夜の連続で見ました。

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[お天気の良い日曜日]

若者たちと大人が対照的に描かれている戯曲ですが、大人世代の方に共感して見てしまうのは、こちらの加齢のせいかしら・・・?

第一部のハル王子(Alex Hassell)を見て、私は「あーあ、もう大人なのに遊んでばっかりで、これじゃ親御さんもご心配よね・・・」と思っちゃいました。いつまでも就職しないモラトリアム男子に見えるのです。ハルのライバル、ホットスパー(Trevor White)は常に興奮状態で他者のことはいっさい考慮できない性格。「ADHD(注意欠陥多動性障害)なのね、親御さんもご苦労ね・・・」と、またしても親に同情。

若者たちがこんなふうだから、ヘンリー王(Jasper Britton)は気短に怒ってばかり。ホットスパーの父親ノーサンバランド(Sean Chapman)も病気になっちゃう。それも当然に思えてきます。

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[老人たちの好演が目立つ『ヘンリー四世』。酸いも甘いも噛みわけたマダム・クイックリー(Paola Dionisotti)もいい味出していました]

・・・というような世間の良識ある人々の心配や苦労とは無縁なのが、大酒飲みでほら吹きのフォルスタッフ。アントニー・シャー(Antony Sher)が演じました。名優として認められているシャーですが、私は今まであまり好きにはなれなくて、なんというか「北島三郎が歌がうまくても好きになれない」というのと似た感じ。

ところが今回は、シャーのややしつこい演技がフォルスタッフにぴったり。他の役者の台詞のスピードと関係なく、たっぷりと自分の台詞を聞かせ、観客の関心を一身に集め続ける濃厚さが、フォルスタッフのわがままぶりと重なり合うのです。

嘘がばれようと気にしない。見栄なんか気にしない。借金なんか気にしない。いい年して酒好き、女好きですけど、それが何か?自分の欲のためなら、他人のことなんか一顧だにしないフォルスタッフは、まさに暴走老人です。

ところが第二部、この暴走老人が唐突に涙する姿に、観客は唖然とします。娼婦相手の気ままな酒場暮らしから無理矢理かり出され、内戦に重い足取りで向かう場面です。(劇評での評価はまちまちですが)私はこの場面に、人生への執着と死の予感がせめぎあう中で涙もろくなった老人の哀感が見えた気がしました。

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[若い頃はやんちゃだったよなあ・・・と、古い記憶をたぐりよせる老人たち]

徴兵のためグロスタシャーの田舎に行ったフォルスタッフは、そこで旧友に再会します。よぼよぼのシャロー判事(Oliver Ford Davies)とボケちゃったサイレンス判事(Jim Hooper)と3人で、青春時代の互いの放蕩ぶりを懐かしむ場面は、めちゃくちゃおかしくてちょっと悲しい。夕日の茜色に染まった田園の景色の中に、人生の晩秋の気配が漂います。

こんなふうに老人にばかり共感するのは、こちらの歳のせい?いやいや、アントニー・シャーやオリヴァー・フォード・デイヴィスが圧倒的に演技がうまいせいでしょう。若い世代でも、そろそろスターの華やぎを持ったシェイクスピア役者が出てきてくれないものかしら・・・とぼやくのはやっぱり歳のせいかしら?

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