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2013年9月 3日 (火)

日本人の存在感

まつこです。

ロンドンのサービス付きアパートをチェック・アウトするときに、ポーターのおじさんと話をしました。「20年くらい前は、滞在客の65%くらいは日本人のビジネスマンだったんだよ。日曜日になるとゴルフに行くために、エントランスに車の列ができていたんだ。最近は日本人はすっかりいなくなっちゃったね。」

イギリス人の友人も、最近では日本に関する報道はほとんどなくて、たまに原発事故関係の報道があるだけ、と言っていました。イギリスにおける日本人の存在感はすっかり薄くなったようです。

出発の前日、 BBCのニュースが原発事故の報道をしていました。汚染水が原因の放射線量がこれまで考えていたのより18倍も多かったというニュースです。「18倍」の部分を強調して、専門家のコメントも引用しながら深刻だと報じていました。ガーディアンも同様の報道をしていたので、「こりゃ、大変だ!」と思ってあわてて日本のメディアにネットでアクセスしたら、たいして目立つ報道はありませんでした。あれ? 

意図的な報道規制か、感覚が麻痺しちゃったのか、どちらかわかりませんが、内外の報道の温度差を認識しました。

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[ロワール河畔のシノンの原発。シノンは滞在したモンソロー村から20kmくらいのところ。え、こんなところに原発あるの!とびっくりしました]

旅行中、原発問題についてもうひとつ考えるきっかけがありました。フランスのロワール地方でのことです。たいへん美しい景観が広がるロワール河畔ですが、少し遠くに白い蒸気が3本あがっているところがありました。「うめぞう、あれなんの工場だろうね? ひょっとして原発? まさかね・・・」と言っていたのですが、本当に原発でした。フランスで一番古いシノン原発でした。

フランスは原発大国。消費電力の75%を原発に頼っているそうです。ロワール川の水で冷却しているのだそうです。周囲に広がるぶどう畑。おいしいロワール・ワインの産地ですが、ひとたび放射能が拡散してしまえば、ワインも畜産も、壊滅的ダメージを受けることになります。豊かな緑の大地の上をつっきる高圧電線を見て、にわかに考え込んでしまいました。

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[シノンの原発から伸びる高圧電線。ひまわり畑やぶどう畑の上を走っています]

モンソロー村で「こんにちは」と日本語で声をかけてきた人がいます。以前、東京に滞在したことのある原発技術者の方でした。小さな村でめずらしく日本人を見かけて、声をかけてくれたのです。素敵なお宅にも招き入れられ、おしゃべりもしたのですが、「フクシマ」の話になると陽気な彼が、急に顔をしかめて「あれは深刻だ。収束に何十年かかるかわからない」と言っていました。「シノンの原発? あれは古いけど大丈夫だよ」と楽天的に言っていたのと対照的でした。

経済的な凋落にともない欧米各国で日本人の存在感が薄らいだのは仕方ありませんが、こと原発問題に関しては世界の注目が日本に集まっているはずです。原発事故という人類共通の課題を抱える国として、正確な状況をできるだけ迅速に、世界に向けて情報発信することが期待されているはずです。あくまで核エネルギーを使い続けるというのであれば、はっきりとその覚悟を表明すべきでしょうし、逆に危機感なり、不安なりの声ももっと強く報道さされてもいいのではないでしょうか。

日本の企業がこぞってオフィスをロンドンに持ち、週末は日本人ビジネスマンたちが車をつらねてイングランドの美しい田舎でゴルフ三昧・・・。そんな邯鄲の夢の再来を願うのではなく、科学技術史上の急所に立つ当事者として、日本人は存在感を持つべきだ、と思いながら帰国の途につきました。

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コメント

海外の知日派も、海外での日本に関する報道の偏りを心配しているようですね。原発関係の報道然り、「右傾化」に関する報道然り。日本からの発信力を高めていかなければいけないのに、どんどん内向きになるようで、先行き不安です。

Pukiさん、コメントありがとうございます。

モワッとした全体の雰囲気に身を任せるのではなく、一人で考えてそれを明瞭に言語化するということが大切なんでしょうね。広い意味でこれも言語教育。議論文化の成熟のためには教育の責任も大きいですね。頑張りましょう。(まずは教授会が問題かもしれないけど…。)

まつこさま こんにちは

私も、スコットランド各地で出会った人々とお喋りをすると、必ず原発、そして東北の地震が話題にのぼりました。
どこの国でも、その国の事情に合わせて報道の内容や順序に違いがあるものでしょうが、原発に関して正確な情報を隠蔽しているという印象を与えかねない今回の報道、さらに日本の印象を悪くさせかねないと危惧します。しかも情報を日本の報道ではなくて海外の報道の方で大きく取り上げているというのは、なんだか戦争中の日本の報道規制を想起させるところもあり、恐ろしいですね。

ショウガネコさん、コメントありがとうございます。

原発事故は爆発の映像も、私はBBCのウェッブサイトで最初に見て愕然としました。地震直後は、パニックを避けるために日本のメディアがplay downして報道するのも仕方がないかと思いましたが、これだけ時間がたっても外国のメディアの情報の方が分析的だと、日本ではやはりmedia blackoutなのだと思わざるをえません。ま、イギリスでもイラク問題の時のBBCとか、ニューズ・インターナショナルの盗聴とか、メディアはいろいろ問題あるみたいですけどね・・・。

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