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2013年8月26日 (月)

紅灯の巷:A Mad World My Masters

まつこです。

ストラットフォードではもうひとつ芝居を見ました。トマス・ミドルトンというシェイクスピアと同時代の作家の喜劇A Mad World My Mastersです。ところがプログラムを買ってみると、登場人物の名前が違っています。この17世紀冒頭の喜劇の舞台を1950年代のロンドンのソーホーに移すという大胆な演出でした。

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[1950年代のソーホーはまさに紅灯の巷。写真はthegoodreview.co.ukより]

第二次世界大戦が終わったあと、人々の価値観も大きく変わりました。1950年代から60年代にかけては性的なタブーがどんどん崩された時代です。そんな時代の変わり目で欲望がうずまくソーホーは、まさに「マッド・ワールド」。酒と音楽とセックスにあふれた狂乱の街。

・・・というふうに、ミドルトンの喜劇をわかりやすく演出しています。ただし「改作」ではなく「編集」。ずいぶん短くカットされていますが、台詞そのものはあまり変えていません。人物名については、もともとダジャレになっているので、現代でも通じるジョークになるように変えてあります。たとえば妻の浮気を過度に警戒しても結局寝取られてしまう夫は、原作ではHarebrain(「知恵足らず」というような意味)ですが、この演出ではLittledickという名前に変えられています。意味は・・・下品でとても訳せません。

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[写真はIndependentより]

生バンドをバックに黒人歌手がジャズやリズム&ブルースを歌うのに合わせて、次から次へと金をまきあげ、女をだまし取り、欲望全開のドタバタ喜劇がスピーディに展開していきます。かなり露骨で下品な場面も、あっけらかんとした笑劇に仕立てられているので、思わずゲラゲラ笑ってしまいます。

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[写真はTelegraphより]

変装、女装、アリバイ作り、強盗、劇中劇なんでもあり。今にも破綻しそうなスリルの連続を笑いながら見ていると、舞台下に大道具をしまい込むトラップドアが故障して、劇が中断してしまいました。黒服の裏方が出て来て不具合を直し、何事もなかったかのように平然と喜劇が再開したのを見て、「ひょっとしてこれも演出の一部かも・・・」と思うほど、劇場エンターテインメントの手の内を最大限並べて見せた喜劇でした。

再終幕は17世紀ジャコビアンの衣装というドレス・コードつきパーティという設定で、ミドルトンの時代の喜劇として終わるという趣向までついています。

複雑な騙しのネットワークの要所になる男女、Follywit(リチャード・ゴールディング)と娼婦(セアラ・リッジウェイ)は、いずれも若い俳優ですが実に達者で、イギリスはまだまだ若くて良い役者が出てきているのだな、と改めて思いました。

ところが観客席はシルバー世代で一杯です。1950年代の古き良きジャズ・ナンバーが流れると、一緒に歌いだしちゃう人もいます。最近、イギリスの劇場に行くと、観客の高齢化が顕著です。

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[今回泊まったのはFalcon Hotel]

泊まったホテルにも老人世代の宿泊客が目立ちました。「老人ホームに入ったけれど、26人中、歩いて町まで出ていけるのは僕だけなんだ。半分の人は部屋から出られない状態で。友達ができず残念だ・・・」なんて会話をしているのが耳に入ってきました。

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[Folcon Hotelの内部]

観光客であふれているストラットフォードの町ですが、若い家族連れはボートに乗って写真とって帰って行き、劇場まで足を運ぶのはだんだんお年寄りばかりになっているようです。ミドルトンの『マッド・ワールド』には、欲望に身体が追いついてこないおじいさんも登場していましたが、こういうのを見て笑うのは、やっぱり大人の娯楽なんでしょうかね。この老人たちもかつてはソーホーで遊んでいたのかな・・・なんて思った一夜でした。

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コメント

まつこさま こんにちは

ストラトフォードで収穫があって良かったですね。なるほど面白そうです。
若い観客を取り込もうという試みが色々あるようですが、なかなか功を奏さないんでしょうか。芝居より面白いものがたくさんある時代ですから。。
今の若者が老人になったころ、芝居はどんなことになっているんでしょうね。

こんなマイナーな劇も上演しているのですね、面白そう。それにしても、酔っぱらってネクタイで鉢巻きって、日本のサラリーマンだけかと思ってました。

ショウガネコさま、コメントありがとうございます。

どこに行ってもスマホの画面にくぎづけになっている若者ばかりで、こういう瞬間的な情報にさらされ続けていたら、2時間半とか3時間とかじっくり舞台を見るなんてムリだろうなあ、と思います。それでもまだドラマ・スクールに若い才能が集まり、ちゃんと人材を輩出し続けているのが不思議な気がします。おじいちゃん、おばあちゃんばかりの観客にまじって、ま、気がつけば自分もぜんぜん若くないんですけど・・・。

Pukiさん、コメントありがとうございます。

悪ふざけが少し過ぎた感じのある舞台でしたが、面白かったです。こんなのミドルトンが見たら、自作とは気がつかないかもしれませんが。ネクタイではちまきの彼はPenitent.。終幕の仮装パーティではピューリタンの扮装で登場します。その服装を見ただけで、観客が笑っていました。

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