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2012年8月25日 (土)

シェイクスピア劇三本(二勝一敗)

まつこです。

今回は短いロンドン滞在ですが、今週は3晩続けてシェイクスピア作品を見ました。

お気に入りの役者サイモン・ラッセル・ビールが主演する『アテネのタイモン』は現在のイギリスに舞台を設定して、今日の社会にはびこる拝金主義を批判する演出になっていました。美術ギャラリーのパーティーでシャンパン、豪華な邸宅でのパーティでもシャンパン、女性たちはほっそりとした体型にミニのワンピース、男性たちは仕立ての良いスーツ、スポンサーのロゴ入りのお土産、パーティの余興は洗練されたダンス・パフォーマンス・・・ビューティフルでリッチでパワフルな人々だけが集うゴージャスな世界。

Timon_of_athens
[お金があれば皆にちやほやされるけれど・・・]

そのマネー・ソサエティの中心にいるのがタイモンです。太った体と神経症的性質をおぎなうように、タイモンは愛想の良い笑顔をまき散らし続けます。タイモンが気前良くふるまう金やプレゼントを目当てにやってくる人々は、まるで脂身にたかるハエの様。その群がるハエたちを友人だと思ってしまったところがタイモンの悲劇です。金の切れ目が縁の切れ目。資金不足に陥ったタイモンに手を差し伸べる人は誰もおらず、タイモンはホームレスになり、ゴミをあさりながら、金と人間への呪詛の言葉を吐散らします。

タイモンにへつらうルーカラスのオフィスの窓からHSBCのロゴが見えたり、反逆者のアルシバイアディーズが政府の経済政策に抗議する運動Occupy Londonのリーダーだったり、細部までシェイクスピアのテクストと今日の社会問題を関連づけようとする工夫がされていました。拝金主義への反省が反映してるこの上演ですが、プログラムにはTravelex, American Express, JP Morganなどがスポンサー企業として名前を連ねています。Amexのカードを持っていると予約の際に優待されるとか。資本主義はアイロニーと複雑さも抱え込んですべてを覆い尽くしているということでしょうか・・・。

次に見たのはワールド・シェイクスピア・フェスティヴァルの一環であるロイアル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)の『ジュリアス・シーザー』。ワールド・シェイクスピア・フェスティヴァルはシェイクスピアがイギリスだけではなく、世界が共有する作家であるという理念のもと、オリンピックに合わせて繰り広げられたイヴェントです。イギリスを代表する劇団であるRSCがこのフェスティヴァルのために提供したのが、イギリス黒人俳優だけで演じられる政治劇『ジュリアス・シーザー』です。

Julius_caesar
[これってアフリカの人が見たら何て言うのかな・・・とやや疑問な上演]

その理念やよし・・・としても、この上演はヘンテコでした。イギリス俳優がわざとらしいアフリカ訛りふうの英語で台詞を語り、独裁者暗殺とその後の政治的混乱を描くのですが、どこの国とは特定されていません。そこに反映しているのは、「アフリカといえば独裁国家と政治腐敗」というステロタイプ的発想です。占い師はボディ・ペイントに腰巻きの呪術師で、取り付かれたような表情で暗殺を予言します。これも「アフリカといえば土着的迷信がまだ支配する暗黒大陸」という偏見の反映のように思えます。

イギリスではかなり高く評価されているこの上演ですが、イギリスの「上から目線のマルチ・カルチャリズム」が露呈しているように感じられました。一緒に見に行ったショウガネコさんと、プリプリ怒りながら劇場を後にしました。

3日目はマーク・ライランスの主演する『リチャード三世』を見に、テムズ河畔のグローブ座へ出かけました。グローブ座はシェイクスピアの時代の劇場を再現しています。今回は俳優は全員男性で、コスチュームもシェイクスピア時代の装束です。シェイクスピアの時代に女性の役は少年が演じていましたが、今回は大人の男性俳優が演じます。それ以外はシェイクスピアの時代の雰囲気を「復元」するというコンセプトの演出でした。

Richard_iii
[エキセントリックで可笑しい悪人を巧みに演じたライランス]

しかし、これが意外にも現代的。歴史上の大悪人リチャード三世ですが、今回は愛嬌さえ感じるエキセントリックな人物に作り上げられていました。ライランスの演じるリチャードは、どもったり、口ごもったり、つねにオドオドしています。そんな自信なさげな人物が、突然、発作のように怒りだし、けれどまたすぐ元のモジモジした表情に戻る。その変貌ぶりが面白い!こんなに終始、観客が笑い続ける『リチャード三世』は初めてです。

まるで駄々をこねる子供のように自分の嫌いな人物は殺しちゃう。こういう自己評価が低くて、幼児性から抜けられない人っているよね〜、と時代を超えた類型的人物像が浮かび上がってきます。今日は面白くてよかったね、と面白い芝居を見た後の軽い興奮を分かち合いながら、ショウガネコさんとテムズ川を渡って帰路につきました。

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コメント

まつこさま

3夜連続シェイクスピア、お疲れさまでした! ご一緒させていただいて、本当に嬉しかったです。確率2/3というのは結構優秀な成績ですよね。私はいまだにマーク・ライランスのリチャードを思い出してくすくす笑っています。

またロンドンで一緒に観劇させていただける日を楽しみにしています!

ショウガネコさま、コメントありがとうございます。

芝居はやっぱり面白いですね。サイモン・ラッセル・ビールといい、マーク・ライランスといい、イギリス役者の底力を感じますね。ストラットフォードの『十二夜』のレポートも待っています。

またぜひご一緒しましょう!

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