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2012年7月13日 (金)

星に祈る

まつこです。

先日、母の老人ホームを訪ねたとき、館内にはいろんなところに七夕飾りが飾られていました。

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[エントランス・ホールの七夕飾り]

3週間ぶりに訪ねていった私の顔を母は一瞬じっと見つめて、「あなた誰だったかしら?」

ああ、とうとうこの日が来てしまいました。話を始めるとと母の頭の中が少しクリアになり、娘だということはわかってほっとしたものの、かなり症状が進んだのは確かです。

単純な会話しかできなくなりましたが、なんとか会話を続けるためのキーワードは「ママ」です。「ママ」「ママ」と頻繁に呼びかけると、私との関係が認識できるようです。

母:このセーター、いろんな色が入っていていいわね。
私:そういえばママの好きな色ね。ママにも買って来てあげようか。
母:私はいいわよ・・・
私:ママ、そう言わずに、ママもきれいにしていた方がいいわよ。ねえ、ママ・・・。
母:そうね・・・でも、安いのでいいわよ。
私:じゃあ、次に来る時に持ってくるわね、ママ。待っててね、ママ。楽しみにしていてね。
母:あら、このセーター、いい色ね。
(以下、この会話の繰り返しが10回ほど続く・・・)

私は51歳。世間並みには、そろそろ孫がいても決しておかしくない年齢です。それで「ママ」を連呼するのもかっこ悪いのですが、仕方ありません。

ボケちゃったお年寄りでも「先生」とか「部長」とか「所長」とか、昔の肩書きで呼ばれるとシャンとするということがあるようですが、それと同じです。「ママ」と呼ばれると、母親としてのアイデンティティを回復するということでしょう。

Photo_2
[文字も書けなくなってきており、やっと書いた短冊。「みんなげんきでいますように」とひらがなだけで書きました]

できるだけ毎日、電話もするようにしているのですが、昨日は「ここは雪がなくて助かるわ〜」と見当はずれなことを言っていました。がっくりとした気持ちを隠して、「そう、良かったわね、ママ」と適当に受け答えします。もう内容のある会話はできないと諦めて、あたりはずれのない話を続けます。すると・・・

「あなたの声が聞けただけでも良かったわ。ありがとう。」

そう言って、母は電話を切りました。

昔の母のままの言葉にグッときちゃいました。涙目で空をみあげても曇り空。でも雲の向こうのお星さまに、「ママが少しでも安らかな気持ちでいますように」と祈りました。



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コメント

まつこさん、こんにちは

あなた誰?・・・まつこさんも覚悟はされていたとはいえ、やはりショックですね。

でも、お母様はいつもとても穏やかに過ごされていますね。
まつこさんとお話しすることで、よりお母様のお気持ちが落ち着くのでしょうね。

お母様からの感謝の言葉は宝物ですね。
まだまだ沢山宝物をお母様からいただけることでしょう。
お母様との時間、大切になさってくださいね。

私も、言葉はなくても母と同じ空間にいられる時間を大切にしたいと思います。

翡翠さん、コメントありがとうございます。返信が遅れて申し訳ありません。

電話でも、「まつこ・・・まつこさんってどなただったかしら?」と言われることが時々あります。母が、だんだん遠くに、だんだん小さくなっていくことを実感する日々です。

でも穏やかに過ごしてくれているので、本当にありがたく思っています。
もちろん母が変わっていく様子を見るのは辛いのですが・・・。

昔通りに母と普通に会話する夢を見て目を覚ますことが時々あります。そんなときは失われたものを悲しむのではなく、残っている思い出を大切にしようと、自分に言い聞かせています。

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