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2012年5月 5日 (土)

下からのEU創設

うめぞうです。

美味い飯をくって、囲碁を楽しみ、すっかりくつろいだGWだったが、あいにくまつこはまだ風邪気味。そんなわけで、うめぞうが再登板することにした。

混迷するEUのことを考えると、やはりドイツとギリシャが同じ通貨をもつのは、経済的に無理なのかと考えてしまうことがある。しかし、前にも書いたように、EUのプロジェクトを経済合理性からだけ考えるのはまちがっている。

先日、ヨーロッパの知識人たちが連署した一つのマニフェストが公開された。ブリュッセルの官僚や、ユーログループのエリート閣僚たちによる「上からのヨーロッパ」政策に対抗して、「下からのEU創設」をしようではないか、という呼びかけだ。

ドイツには以前から、「自発的環境活動年」、「自発的社会活動年」などと称する研修プログラムがある。16歳から27歳の若者を対象とし、1年間、自分が希望する環境・福祉・教育等に関連する施設で実地研修を受けることができる。参加者の住居費や健康保険、傷害保険、それに月々1万5千円程度の小遣いを合わせて月額6~7万円を、国と各研修施設が2対1の割合で負担する。こうして若者に社会体験の場を提供しようというわけだ。

これにヒントを得て、ヨーロッパのあらゆる老若男女が1年間、他国で言語を学んだり、社会活動に参加できる制度を作ろうという呼びかけだ。ヨーロッパとは何か、ということを考えさせてくれるマニフェストなので、以下に大雑把な翻訳をしておこう。ちなみに、このマニフェストには、社会学者のベックや、哲学者のハーバーマス、ヘルムート・シュミット元首相、ノーベル賞作家のヘルタ・ミュラー、ヴァイツゼッカー元大統領、ドロール元欧州委員会委員長など、そうそうたる面々が署名している。

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われわれこそがヨーロッパだ
下からのEU創設を求めるマニフェスト

すべての人に――タクシー運転手と神学者に、サラリーマンと労働者と失業者に、音楽家と重役に、見習い工と芸術家と料理人に、裁判官と年金生活者に、女性たちと男性たちに――自発的研修のための一年を保証すること。これをユーロ危機への回答としよう。

かつてないほどに高度な教育を受けたヨーロッパの若者たちが、迫りくる国家破産と労働市場の混迷のために「ヨーロッパの宿命」を背負う憂き目にあっている。25歳以下のヨーロッパ人の4分の1が失業者だ。若いプレカリアート[貧困化する不安定就労者]たちはテント村をしつらえ、世の中に向かって声を上げている。そこで要求されているのは社会正義だ。スペインであれ、ポルトガルであれ、北アフリカ諸国であれ、あるいはアメリカの大都市であれ、モスクワであれ、その要求はいたるところで力強く発せられている。巨費を投じて銀行を救済しながら、若者の未来を使い捨てにする政治への怒りが高まっている。しかし、それではいったい高齢化するヨーロッパに、まだどんな希望があるのだろうか。

 アメリカ大統領ジョン・F・ケネディはかつてピース・コア[長期ボランティアのための平和部隊]を創設するというアイデアで世界を驚かせた。「国が君のために何をなしうるかではなく、君が国のために何をなしうるかを問うてほしい。」

 このマニフェストの発起人であるわれわれは、ヨーロッパの市民社会に発言権を与えたいと思っている。それゆえわれわれは欧州委員会と各国政府に、欧州議会と各国議会に、活動する市民のためのひとつのヨーロッパを創出するよう要求する。そしてすべての人々に自発的研修年を保証するための財政的支援と法整備を行うよう要求する。これは、これまで支配的であった上からのヨーロッパ、エリートとテクノクラートのヨーロッパへの対抗モデルだ。必要とあらばヨーロッパ市民の意志に逆らってでも無理やり幸福をひねり出してやろうとするようなヨーロッパ政策の暗黙のルールによって、ヨーロッパは挫折しそうになっている。重要なことは各国の民主主義をヨーロッパ的水準で民主化することであり、そのようにしてヨーロッパを新しく作りなおすことだ。ヨーロッパが君のために何ができるのかを問うのではなく、君がヨーロッパのために何ができるかを問おう。それがモットーだ。さあ、ヨーロッパしよう。

 民主主義理論の先達たちは――ジャン=ジャック・ルソーからユルゲン・ハーバーマスに至るまで――誰一人として、民主主義が定期的な投票行為で済むとは思っていなかった。目下、ヨーロッパを引き裂いている債務危機は単なる経済的危機ではなく政治的危機なのだ。これを解決するには、ヨーロッパの市民社会と、若い世代のヴィジョンが必要だ。ゆめゆめヨーロッパが目の敵にされ、ヨーロッパ人不在のヨーロッパに対する市民の「怒りの行動」がまきおこるような事を許してはならない。ヨーロッパ人の参加なしにはヨーロッパは機能せず、またヨーロッパ人は自由の空気を吸うことなしに行動することはできない。

 ヨーロッパのための自発的研修年を創設するための国と民族と宗教の境界線をこえた活動は、政治的怠惰を隠蔽するためのものではない。それはむしろ創造的空間を創出すべきものだ。それゆえ、すべての人のためのヨーロッパ研修年はヨーロッパ市民社会の自己創設行為であり、失業している若者への施しなどではない。それはヨーロッパが、下から作用する新たな憲法を自らに与え、それによって政治的創造性と正統性を生み出すための自己創設行為なのだ。政治的自由は、恐怖を免れた安心感を含むものでなければならない。そうした安心感は、雨露をしのぐ住まいがあり、自分が明日、そして老後にどのように生活していくのかを今日わかっている場合にのみ、育つ。だからこそヨーロッパ研修年には、しっかりとした経済的支えが必要だ。われわれはヨーロッパの経済界に、そのための寄与をするよう呼びかける。

 下からのヨーロッパは、既存の行動パターンに範を求めるわけにはいかない。ここでの市民は、他のヨーロッパ諸国におもむき、国民国家ではもはや解決できないような――たとえば気候変動や環境破壊、難民の流入、民族差別や極右運動といった――問題領域でトランスナショナルな活動をする。しかしまた、ヨーロッパ中でネットワーク化された美術、文学、演劇のための施設も彼らがヨーロッパのための舞台として利用できるようにしたい。個別国家、EU、政治的市民社会、市場、社会的安定、環境面での持続可能性の間で新たなバランス調整が必要とされる。

 ヨーロッパが良さを発揮できるのはどんなところか。ヨーロッパはわれわれにとってどれほどの価値があるのか。どんなモデルが21世紀のヨーロッパの未来を保証できるのか。これはまだ正真正銘、答えの見つかっていない問いだが、われわれの答えはこうだ。ヨーロッパは、他のどこにも存在していない政治的社会的理念の実験室なのだ。何がヨーロッパのアイデンティティを作り上げているのか。おそらくヨーロッパ的なるものとは、市民と訳される様々な語、「シトワイヤン」(仏語)、「シティズン」(英語)、「シュターツビュルガー」(独語)、「シュダダーノ」(スペイン語)、「オビヴァテル」(ポーランド語)、「ポリーテース」(ギリシャ語)がつくり上げる数多くの政治文化の間の対話と差異のなかにある。そしてまた、自分自身を笑い飛ばすヨーロッパのアイロニーの中にある。ヨーロッパを活気と笑いで満たすためには、市民同士が共に手をたずさえる行動に勝るものはない。

発起人一覧

Yuri Andrukhovych, Schriftsteller; Attila Ara-Kovács, Journalist; Jerzy Baszynski, Journalist; Zygmunt Bauman, Philosoph und Sozialwissenschaftler, Senta Berger, Schauspielerin; Mircea Cărtărescu, Schriftsteller; Patrice Chéreau, Theater- und Filmregisseur; Rudolf Chmel, Literaturwissenschaftler und ehemaliger Kulturminister der Slowakei; Jacques Delors, ehem. Präsident der Europäischen Kommission; Gábor Demszky, ehem. Oberbürgermeister von Budapest; Chris Dercon, Direktor der Londoner Tate Modern; Doris Dörrie, Filmemacherin; Tanja Dückers, Schriftstellerin; Peter Eigen, Gründer von Transparency International; Olafur Eliasson, Künstler; Peter Esterházy, Schriftsteller; Ádám Fischer, Dirigent; Iván Fischer, Musikdirektor, Budapest Festival Orchestra und Konzerthaus Berlin; Joschka Fischer, Bundes-außenminister a. D.; Jürgen Flimm, Regisseur und Intendant, Berliner Staatsoper, Anthony Giddens, Ökonom, Sozialwissenschaftler und ehem. Direktor der London School of Economics; Alfred Grosser, Publizist und Politologe; Ulla Gudmundson, Botschafterin des Königreichs Schweden; Jürgen Habermas, Philosoph, Miklós Haraszti, Schriftsteller, früherer OSZE-Vertreter für Medienfreiheit, Dunja Hayali, Journalistin; Roza Hodosán, Soziologe; Michal Hvorecký, Schriftsteller; Eva Illouz, Kulturwissenschaftlerin; Daniel Innerarity, Sozialwissenschaftler und Publizist; Gabor Ivanyi, Pastor, Rektor des John Wesley Theological College; Mary Kaldor, Politologin; Navid Kermani, Schriftsteller und Islamwissenschaftler; Imre Kertész, Literaturnobelpreisträger; Kasper König, Kurator und Direktor des Museum Ludwig, Köln; György Konrád, Schriftsteller und ehem. Präsident der Akademie der Künste, Berlin; Rem Koolhaas, Architekt; Michael Krüger, Schriftsteller und Verleger; Adam Krzeminski, Journalist und Schriftsteller, 
Wolf Lepenies, ehem. Direktor des Wissenschaftszentrums Berlin; Jutta Limbach, ehemalige Präsidentin des Bundesverfassungsgerichts und des Goethe-Instituts; Constanza Macras, Choreografin und Mode-designerin; Claudio Magris, Schriftsteller; Bálint Magyar, Soziologe, früherer Bildungsminister; Sarat Maharaj, Kunsthistoriker und Kurator; Olga Mannheimer, Autorin; Petros Markaris, Schriftsteller; Robert Menasse, Schriftsteller; Imre Mécs, Elektronik-Ingenieur; Adam Michnik, Herausgeber »Gazeta Wyborcza«; Herta Müller, Literaturnobelpreisträgerin; Hans Ulrich Obrist, Kurator und Direktor, Serpentine Gallery London; Thomas Ostermeier, Regisseur und Intendant der Schaubühne Berlin; Iolana Pârvulescu, Schriftstellerin; Petr Pithart, Journalist und ehem. Premierminister der Tschechischen Republik; 
Andrei Pleşu, Publizist, Kulturminister der ersten demokratisch gewählten Regierung Rumäniens; Martin Pollack, Journalist und Schriftsteller; Alec Popov, Schriftsteller; László Rajk, Architekt; Ilma Rakusa, Schriftstellerin und Übersetzerin; Peter Ruzicka, Komponist und Dirigent; Joachim Sartorius, Schriftsteller und Übersetzer; Saskia Sassen, Wirtschaftswissenschaftlerin und Globalisierungsforscherin; 
Hans-Joachim Schellnhuber, Direktor des Potsdam Instituts für Klimaforschung; Andras Schiff, Pianist; Helmut Schmidt, Bundeskanzler a. D.; Henning Schulte-Noelle, ehem. Vorstands- u. Aufsichtsrats-vorsitzender der -Allianz SE; Martin Schulz, Präsident des Europäischen Parlaments; Gesine Schwan, ehem. Präsidentin der Humboldt-Viadrina School of Governance; Richard Sennett, Soziologe und Schrift-steller; Martin M. Šimečka, Schriftsteller und Journalist; Konstantinos Simitis, ehemaliger Ministerpräsident der Hellenischen Republik; Johan Simons, Regisseur und Intendant, Kammerspiele München; 
Javier Solana, ehem. Generalsekretär des Rates der Europäischen Union und Hoher Vertreter für die Gemeinsame Außen- und Sicherheitspolitik; Sándor Szilágyi, Schriftsteller; Michael M. Thoss, Geschäftsführer Allianz Kulturstiftung; Klaus Töpfer, Gründungsdirektor des IASS und ehemaliger UNEP-Direktor; Klaus Wagenbach, Publizist; Richard von Weizsäcker, Bundespräsident a. D.; Christina Weiss, Kulturstaatsministerin a. D.; Wim Wenders, Filmemacher und Fotograf; Robert Wilson, Künstler und Theaterregisseur; Michel Wieviorka, Sozialwissenschaftler.

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