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2012年3月22日 (木)

鉄の女の老と孤独:『マーガレット・サッチャー』

まつこです。

アカデミー賞ノミネートが17回(うち3回受賞)、ゴールデン・グローブ賞ノミネート26回(うち8回受賞)と、圧倒的な演技力を誇る俳優メリル・ストリープ。最新作The Iron Lady(『マーガレット・サッチャー―鉄の女の涙』)を見てきました。やっぱりうまいわ、この女優。

Photo

[映画The Iron Ladyより]

「あれ、メリル・ストリープってサッチャーとこんなに似た顔立ちだったかしら?」と思わせる物真似のうまさはさすがです。でも有名人の物真似というだけではなく、認知症の症状が出始めた老人の不安と孤独をリアルに演じたところに、メリル・ストリープの名優ぶりがいかんなく発揮されています。うつろな目の表情、震える指先、おぼつかない足取り、周囲の人々とのずれ、ふと頭脳の清澄さを取り戻す瞬間の変化、それらが実に細やかに演じられていました。

メリル・ストリープの役者としての技量には誰もが脱帽するところですが、この映画そのものに関してイギリスのメディアは微妙な反応を示しています。フォークランド紛争、金融規制緩和などサッチャーが政治家としてやったことについての批判的な視点がないというのが一方(どちらかというと左側から)の不満。いわば「サッチャーリズム」抜きのサッチャー映画なんて、センチメンタルな夢想にすぎないというわけです。

もう一方(どちらかというと右側)からは、まだ存命中の元首相の認知症をテーマとするのは配慮に欠けているという批判の声が聞こえます。女性読者の多い保守系タブロイド紙『デイリー・メイル』は、最近、近所の公園を散歩中の写真とともに、「元首相はまだ威厳とエレガンスを失ってはいない」という記事を出しました。映画の中で描かれたよりも実際はずっとしっかりしていると主張するのが目的のようです。

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[ロンドンの高級住宅地ベルグレイヴィアに住み、ご近所の公園にたまに出かけるという元首相。3月19日付『デイリー・メイル』より]

老いてなお論争の軸になりうるところがサッチャーの鉄の女たるゆえんでしょう。

メリル・ストリープの演技力の他に、この映画を見ながらもうひとつ感心したのが巧みなメイクアップです。肌がピンとはった40代の教育相時代から、眼光鋭い50代の首相時代、輝きをなくし失脚する60代、あごがだらりとたるみシミが出て手も皺だらけになった老後の80代まで、実にリアル。世界最高水準のメイクアップの力があれば、30歳や40歳くらいは自由に老けたり若返ったりできるのね。アカデミーメイクアップ賞も納得の受賞です。(ちなみにメリル・ストリープの実年齢は60歳くらい。)

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[メリル・ストリープの顔型をもとに、老いたサッチャーの顔型を作り、そこから頬や顎のたるみなどをラテックス素材で作って装着するのだそうです。写真はEW.comより]

老いからは鉄の女でも逃れられない。でも女優はかなり若返られる。加齢に関するその二つの事実をまざまざと見せてもらった映画でした。

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コメント

まつこさま

私も早く見に行かなくちゃ。
英国の鉄の女を演じられる英国人女優もいそうですが、メリル・ストリープなら違和感ないでしょうね。飛行機で Anonymous を見ましたところ、エリザベスをヴァネッサ・レッドグレイヴが演じていました。(ちなみにマーク・ライランスが Henry Condell を演じていました。)なかなか興味深い映画でした。強い指導者を演じられるのはペネロピ・ウィルトン もそう。Doctor Who では PM を、iTV の大ヒット The Downton Abbey では マギー・スミス と対立したり和解したりと名女優合戦を繰り広げています。ああ、イギリス映画が面白い。

ショウガネコさま、コメントありがとうございます。

この映画、Michael Pennington, Michael Maloney, Iain Glenなども出演していて、イギリス俳優陣の分厚さも感じさせます。やっぱりいいですね~、イギリス俳優、イギリス映画。Downton AbbeyのDVDも買いました。Anonymousも早く見てみたい! ああ、春休みが短すぎる。

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