« 金は天下の回りもの | トップページ | Radio Exercise No.1 »

2012年1月17日 (火)

究極の選択

うめぞうです。

アメリカの格付け会社S&Pが、これまで最上級だったフランス国債をついに格下げした。他のユーロ圏8か国の国債も同じく格下げされた。いよいよユーロ危機が正念場を迎えつつあるようだ。

Photo

[ベルリンのドイツ首相官邸の上にも暗雲が・・・。メルケル首相はどう決断するか?]

国債とは国の借用証書だ。その証書にはたとえば100万円と書いてある。そして3年後にその証書をもっていけば国が責任をもって110万円を払いもどすと約束されている。会社と違って、国はそう簡単にはつぶれないから、これは資産運用としてはもっとも安全な手段だ。だから長期の安定的運用が求められる年金基金などは国債で運用しようとする。本来は、格付け会社のランクが下がったくらいで、それほど心配する必要はない。

とはいえ格付けが下がると、100万円の借用証を98万円で売ってでも、今のうちに現金化し、別の金融商品に投じようとする人が出てくる。だったら値崩れする前に売り抜けておいた方が安全だ。皆がそう考えたとき、国債の市場価格は本当に下がる。というわけで、うめぞうが売った時にはすでに95万円になっていたとしよう。

しかし、その時、95万円で買った人は、もし国がつぶれさえしなければ利率が自然と高くなる。なぜといって、満期になればやはり110万円が戻ってくるからだ。95万円で手に入れて、110万円もらえれば、100万円で手に入れて、110万円もらえるよりも高利回りになる。それはそれでよい。問題は、その国が新規に国債を発行するときだ。市中に高利回りの国債が流通していると、それ以下の利率では、だれも買ってくれなくなる。こうして国は利率の高い国債を発行をせざるを得なくなり、借金が雪だるま式に増えていく。一般に国債利率が7%を超えると、もはや借金の棒引き(ヘアカット)をしないかぎり長期的には返済不可能になると考えられている。そうなると国債が一番安全とはいえなくなるから、長期運用している年金基金などが、その国の国債を売り抜けようとして、上の循環に拍車がかかる。

さて、これがギリシャをはじめとする南欧諸国が直面している問題だが、今後EUがとりうる選択肢は4つほど考えられる。そして、どの選択肢を取るかは、かなりの部分、ドイツの決断にかかっている。

第1はユーロ圏の解体だ。今のユーロ水準は輸出大国ドイツにとっては安すぎ、競争力のないギリシャにとっては高すぎる。だからギリシャをいったんユーロから離脱させる。インフレにはなるだろうが、通貨が安くなれば輸出競争力はいずれ回復するだろう。かつてのアルゼンチンをモデルに再起を図る。これが第1のストーリーだ。

しかし、この選択肢をとるなら覚悟しておかねばならぬことがある。ギリシャが旧通貨ドラクマに戻れば、その通貨はすぐに3分の1くらいの価値になるだろう。ということはユーロ建ての借金が即座に3倍になるということだ。こうなると借金は踏み倒さざるを得ず、独仏をはじめ世界の金融機関は大打撃を受ける。自己資本比率を確保するために、銀行は貸し渋りや、貸しはがしに走り、実体経済を冷え込ませる。それだけではない。ギリシャが離脱すると、世界のファンドは次はどこか、と考える。ポルトガル、アイルランドはもちろん、スペイン、イタリアも視野に入ってくる。そしてもし南欧諸国が抜けると、その後のユーロは今より高くなる可能性が強い。そしてそれはドイツの輸出競争力をそぎ、ドイツでも失業者が急増する。さらにまずいことに、こうした結果になるとEU諸国の対ドイツ感情が一気に悪化するだろう。「余力のあったドイツが援助を惜しんだためにこうなった。ドイツは強大になると、やはり自分のことしか考えない国だ」と言われる。そして再びナチの記憶が戻ってくる。これが第1の選択肢に付随するコストだ。

第2は、バズーカと呼ばれる策だ。ヨーロッパ中央銀行(ECB)が最後の貸し手機能をとことん発揮して南欧諸国の国債を無制限に買い支える。こうして一国たりともユーロ圏からの離脱はさせないという決意を示せば、国債の利率は低下するだろう。しかもこれは、各国の議会承認という民主的手続きを要しないため、やる気になれば明日にでもできる。ただし、このバズーカの欠点は長期的にはユーロへの信認を低下させ、インフレ圧力を高めることだろう。ドイツはインフレ恐怖症なので、中央銀行のバズーカについては陰に陽にブレーキをかけているように見える。

第3は、ユーロ債の発行だ。ギリシャやイタリアが単独で国債を売ろうとするから、売れ行きが悪くなり、利率が上がる。ユーロ圏全体で責任を持つユーロ債、あるいはドイツやフランス、フィンランド、オランダ、ルクセンブルク、オーストリアなど、競争力のある国で共通発行する「エリート国債」なら資金調達ができるだろう。それを台所事情の苦しい国に回す。ただし、資金を受ける各国にはこれまで保持してきた予算策定や財政政策に関わる主権の一部を放棄させる。しかし、これはドイツが南欧諸国と文字通り運命共同体になる策だから、ドイツでは一番抵抗が大きい。

第4は、EFSF(欧州金融安定基金)の拡大強化だ。拠出金を大幅に積み増し、ここが発行する債券で資金を調達する。あるいは基金が直接ECBからお金を借り、それを使って借金国の国債を低い利率で買い取ることができるようにする、などだ。EFSFは、近年のうちにIMFのヨーロッパ版であるESM(欧州安定メカニズム)へと発展的に移行することになっているが、この移行を早め、額を上積みする必要がある。多分、今の3倍くらい、200兆円をこえる額にしないと実効性がないだろう。しかし、今でもすでにドイツが27%、フランスが20、イタリアが18%を負担しており、フランス国債が格下げされたとなると、上積み原資を提供できるのはドイツだけだ。

うめぞうは、専門家ではないので、どれが最良の策かはわからない。わかっているのは、いずれの選択肢もドイツにとっては、非常に高くつくということだ。事ここにいたっては、ドイツの納税者があまり負担をせずに危機を切り抜けられる可能性はほとんどない。政府と議会はまずそのことを国民に知らせ、各選択肢とそれに付随するコストを明示するべきだ。そのうえで迅速に政治決断をしなければならないだろう。

ちなみにうめぞうのお勧めは、まずはECBによるバズーカで当面の危機を回避し、あとはEFSF(ESM)の拡大とユーロ債の組み合わせで南欧諸国の経済発展を10年、20年のスパンで見守り、後押しすることだ。ともあれ、第1の選択肢が、もっともコストがかかるということを国民に伝えることが、今、ドイツの政治家に一番求められる。

まつこの解説

お買い物大好きな妻とコツコツ働く夫。ある日、妻が「お買い物しすぎてお金無くなっちゃった」と言い出しました。さて、どうするか?

案1.こんな女とは離婚だ!(非人情な夫だとやがて世間からなじられる。)

案2.仕方がない二人の定期預金をくずそう。(財布のひもが結局ゆるみっぱなしになる。)

案3.しょうがないな、銀行ローンに頼ろう。(妻には信用がないので夫名義の借金となる。)

案4.二人で一生懸命働くことを約束して実家からとりあえず借りる。(妻の実家は空き家なので、夫の実家に頼るしかない。)

どの案でも夫に負担がかかるが、もっとも痛い結果になるのは案1である。

« 金は天下の回りもの | トップページ | Radio Exercise No.1 »

コメント

経済音痴の私ですが、うめぞうさんの分かりやすい解説で、ユーロ危機がようやく理解できました。そしてまつこさんの実地解説で更に理解が深まりました!
解説シリーズ、これからも宜しくお願いします♪

翡翠さん
コメントありがとうございます。ちょっと褒められると、真に受けて舞い上がるタイプなので、解説シリーズの続編をちょくちょく書くことにします。まつこのコメントは、わかっているのか、いないのか、端倪すべからざるものがありますが、妙に鋭いところがあって連れ合いながら感服することがあります…。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 究極の選択:

« 金は天下の回りもの | トップページ | Radio Exercise No.1 »