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2011年9月 2日 (金)

ヘイマーケット劇場

まつこです。

イギリス滞在も残りわずかとなりました。観劇の予定の入っていない夜は今日、一日しか残っていなかったのですが、レイフ・ファインズの『テンペスト』を再度、見に行きました。

実は先日、楽屋口でサインをもらったとき、他の人たちの中に握手してもらっていた人もいたのですが、私は気おくれしちゃって手が出せなかったのです。それをうめぞうに伝えたところ、「もう一度行って握手してもらわないと一生後悔するよ」と言われました。妻のミーハーぶりを面白がって煽りたてているような気もします。

Photo

[格式あるヘイマーケット劇場]

とにかく、捲土重来を期し、私はプレミアム付きのばかばかしく高いチケットを買って、再度、ヘイマーケット劇場へ出かけました。

寒さの中待つこと40分。ところが今晩は集まったファンがおとなしい人が多かったようで、ずらりと並んでプログラムを差し出し、レイフ・ファインズはそれにさっさと順番にサインしていくだけ。実に粛々とした楽屋口でした。誰も握手を求めたりしていません。

いよいよ私の順番が来たとき、「月曜日に来たのですが、素晴らしかったので、また来ました」と言ったところ、レイフはそこでサインの手をとめ、私の目をじっと見つめて、さらに私の腕に触れながら「二回も来てくれてありがとう」と言ってくれたのです。コートを通してレイフの手の温かみが伝わってきます。やった~!

シアター・ロイアル・ヘイマーケットは、私が生まれて初めてイギリスで演劇を見た劇場です。ピーター・パンの作者ジェイムズ・バリーの『あっぱれクライトン』という作品でした。映画『マイ・フェア・レディ』のヒギンズ教授をやったレックス・ハリソンが出演していました。エレガンスを絵にかいたようなエドワード朝の貴族の家庭で起きる出来事を通して、階級制度を軽やかなに風刺した作品です。

ヘイマーケット劇場はロイアルと今も劇場名に冠されているように、18世紀の前半に王室の勅許をとった劇場で、高い格式と歴史を誇っている劇場です。円柱が立ち並ぶ重厚な外観、金色に輝く装飾と鏡が多様された華やかな内装、そしてゆったりと演劇を楽しむ優雅な立ち居振る舞いの観客を見て、まだ学生だった私は大人の世界に一人迷い込んだような戸惑いを感じました。「いつか私もここのバーで幕間にシャンパン飲むのが似合うような女性になりたい」と憧れの気持ちも抱きました。

今では他のロンドンの劇場と同じように、上演中に飲み物を飲んだり、携帯を鳴らしてしまったりするちょっと行儀の悪い観客もまじっています。古めかしい内装も、いかにも過去の栄光の遺産のように見えます。そんな時代の変化にじっと耐えている劇場を守っているのが劇場マネージャーです。

終演後、楽屋口に劇場マネージャーが出てきて、集まったファンに向って「チケットとプログラムにサインをするだけです。それ以外はご遠慮ください」と告げます。スニーカーにスポーツウェアなどカジュアルな服装で役者たちが出てくる中、このマネージャーだけは蝶ネクタイです。ちょっと頑固そうな表情でステージドアの前に立ち、悠然と煙草を吸っている様子は、まさに古き良き時代の劇場の生き証人です。レイフ・ファインズの手の温かみとともに、この初老のマネージャーの蝶ネクタイも、ヘイマーケット劇場の思い出として記憶に残りそうです。

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コメント

まつこさま

高いチケット、思い切って購入した甲斐がありましたね!! 
レイフ・ファインズも、1週間に2回も来てくれた日本のファンの存在に力づけられ、いっそう演技に熱が入るのではないでしょうか。

ショウガネコさま、コメントありがとうございます。

まだ始まって5日目の公演に2度通うなんて、「酔狂」の一言に尽きますね。

ドレスサークルから見ると、見え方がまた違っておもしろかったです。ステージの天井がむやみと高いので、上下に動く大道具を使うのにも納得できました。でも全体にスペクタクル性が強くて、「夏休みこどもミュージカル」に堕すリスクのある演出であることを再確認しました。

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