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2011年8月20日 (土)

『ヴェニスの商人』『夏の夜の夢』

まつこです。

一泊二日でストラット・フォード・アポン・エイヴォンに出かけて来ました。ロイアル・シェイクスピア・カンパニーが拠点とする劇場の大改築が終わり、新しい劇場がどのようなものなのか見てみたくて出かけました。

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[新劇場には8階の高さのタワーが作られました。ストラットフォードでは超高層ビルです。ウォリックシャーののどかな田園風景が一望できます]

今回は大劇場で『ヴェニスの商人』と『夏の夜の夢』を見ました。最もよく知られた劇ですし、演出も現代的でおもしろかったのですが、観客は圧倒的に高齢化していました。

60歳以上だと切符代がかなり割引になるサービスがあることも一因かもしれません。うめぞうもしっかりそのサービスを利用させてもらいました。

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[新しくなった劇場のエントランス。私の背後にもご高齢の観客がたくさん写っています]

大劇場は馬蹄形の客席が舞台を囲んでいて、どの席からもとても見やすくなっていました。この新劇場にどれだけ若い世代の新しい観客を呼び寄せられるかが次の課題でしょう。

Rupert Goold演出の『ヴェニスの商人』は度肝を抜かれるほどケバケバしいラスベガスに舞台を設定しています。数多くのカジノやホテルを所有するユダヤ資本の提供者がシャイロック。おとぎの国ベルモントはここではショーアップされたテレビのゲーム番組です。バービー人形のようなポーシャが南部なまりの英語で笑顔を振りまいています。

虚栄の象徴の一つがポーシャの金髪のかつらと20センチ近いハイヒールのガラスの靴。3,000ダカットの借金はこの舞台では300万ドル(3億円)に変えられています。この虚飾と投機と欲望の街で、その空虚さや残酷さがむき出しになり、そこでは誰一人ハッピーエンドを迎えられないという苦々しい結末でした。

演出家Rupert Gooldは2009年にENRONを演出して高く評価されました。今回の演出と同様に娯楽性たっぷりのきらびやかな舞台で、暴走する資本主義の落とし穴を見せる趣向でした。現代社会が直面する問題をスマートに突きつけて見せる知的な演出家のようです。

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[お土産屋や飲食店がさらに増え、遊園地の中のようなストラットフォードの町ですが、ホーリー・トリニティが見える劇場裏の様子は以前とほとんど変わっていません]

二日目はNancy Meckler演出の『夏の夜の夢』。マチネーなので、さらに観客の平均年齢が上がっています。

こちらも時代設定は現代。むき出しの倉庫のような空間に、天井から色とりどりのイスがぶら下がっています。気に入らない男と結婚せざるをえないヒポリタが、ふてくされて倉庫の一角のソファで寝込んだあと、夢の中で妖精の女王に変身するという趣向です。ロバに恋するという悪夢から救ってくれたのが、嫌いだったはずのシーシュースにそっくりのオべロン。夢から目が覚めた時は、幸せいっぱいの恋する女性に変身してめでたしめでたし。

でもこの舞台で一番目立っていたのは、本来は地味なキャラクターのヘレナ。男にモテず、しつこく追いすがる情けない女の子。そのみじめさを、すごくチャーミングに生き生きと演じていました。ハーミアを演じた女優さんは代役でしたが、一見かわいこちゃん、実は気の強いおてんばという役柄を体当たりで演じて、カーテンコールでは仲間の俳優たちにいたわられていました。

演出家も女性。女性ばかりに目がいきそうな舞台で、男らしさたっぷりなのがボトムです。ロバに変身させられとき、耳だけでなく、ヘンテコな形のブラブラする棒を股間につけられしまいます。魔法を解かれたときに、「何かついていたような気がする・・・」と思いだす場面で、頭ではなく股間に視線が行きます。

というわけで女性たちが活躍し、男性たちがちょっとコケにされる、(それでめでたしめでたしとなる)『夏の夜の夢』でした。

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[劇場裏のカフェからクロプトン橋を眺める。この景色も変わっていない]

私はストラットフォードまで芝居を観に行ったのは10年ぶりでした。どうせ俗っぽい観光地になっていて人が多くて、遠くてめんどくさいと足が遠のいていました。

今回は鉄道工事のため直行の列車もなく、あれこれ乗り継いでロンドンから3時間。羊と牛が草をはむ景色がどこまでも続くイングランドの田園風景を眺めながらの小旅行です。

新しくなった劇場で、わざわざロンドンから出かけてきた甲斐があったと思えるような、今回のような舞台がいつまでも見られる町であってほしいと改めて思いました。

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