« 千駄木の下駄 | トップページ | リンゴとカボチャの思い出 »

2011年6月19日 (日)

『ジーノの家』

まつこです。

今日は大阪まで日帰りで母を訪問。東海道新幹線の中で、内田洋子さんのエッセイ『ジーノの家―イタリア10景』を読みました。

Photo

[おもいきって装飾をそぎ落とした装丁の『ジーノの家』]

ミニマムなデザインの装丁で、10篇のエッセイがゆったりと組まれています。エッセイひとつごとに、じんわりとした余韻が心に残り、残りページが少なくなっていくのがもったいないので、一行ずつわざとゆっくり読みたくなるような、そんなエッセイ集です。

もう10年以上前に『破産しない国イタリア (平凡社新書)』を読んだ時に、ずいぶん文章の達者な人だなと感心して、以来、内田洋子さんの本は時々読んできました。長いイタリア生活歴とたくましい行動力に支えられて体験したリアルなイタリア社会を笑いを交えた生き生きとした文体で語るのが内田洋子さんの魅力です。

今回の『ジーノの家』は、少し違った魅力があります。派手で濃厚なイタリア人の言動、南イタリアの強烈な太陽、寒く暗い北イタリアの冬、失われた時、挫折した人生、不思議な出会い、それらが端正な日本語で語られています。生の体験が、美しい日本語によって芸術作品へと作りかえられているという印象です。

内田洋子さんはイタリア在住30年以上だそうですが、このエッセイには「旅する人」の視点が感じられます。人も景色も偶然に出会って、時を過ごし、やがて過去の記憶になる。自らの経験したことを遠ざけて眺めながら、それでなお記憶に残っている音、色、人々の表情を書きとどめる。時間を経て成熟し、不純物のおりを沈殿させた、極上のお酒のような複雑な味わいの思い出の数々。こうして人生を遠景化できるのは、やはり定住の安心感の代わりに、異邦人としての孤独と自由を持ちえたからではないでしょうか。

ああ、私も旅に出たくなる・・・。最後まで読み終えたとき、旅心をかきたてられる一冊でした。

注:『ジーノの家』、今年の「日本エッセイスト・クラブ賞」に決まったそうです。納得の受賞です。

« 千駄木の下駄 | トップページ | リンゴとカボチャの思い出 »

コメント

まつこさま

不勉強にして内田洋子さんのご本は知りませんでしたが、この記事を読んで興味がわきました。残りページが少なくなるのがもったいない…という本に出会うのは本当に幸せなことです。私、最近そういう感覚と縁遠くなってます。反省。

ショウガネコさま、コメントありがとうございます。

『ジーノの家』いいですよ~。ちょっと幻想的な面もあって、フィクションとノンフィクションの間みたいな感じ。須賀敦子さんのエッセイにも少し似ています。

最近、英語の読み物の方は「ハズレ」が続いて、これぞというのに出会っていません。お勧めあったら教えてください。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『ジーノの家』:

« 千駄木の下駄 | トップページ | リンゴとカボチャの思い出 »