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2011年1月21日 (金)

オリヴィエの三人の妻:『クレアモントホテル』

まつこです。

年が明けてあっというまに1月もそろそろ終盤です。母の介護はこの3週間ほど、「弟」→「義妹」→「伯母」とローテンションを組んでもらいました。その間、電話で話すと母は以前より少ししっかりとした口調です。「風邪をひかないように。ちゃんとした食事をするのよ」と、上から目線で娘に命令してくれます。「2010年老人ホーム入居作戦」は失敗しましたが、あの家族会議を機に、若干、母の気力が回復したようです。「娘にべったり頼ってはいけない。しっかりしないと老人ホームに入れとうるさく言われる」と思っている気配です。

私はおかげでやや時間的余裕ができ、映画なども観に行っています。一番、最近観たのは、『クレアモントホテル』(Mrs Palfrey at The Claremont)。人生の終わりを一人で生きようと、ロンドンはハイドパークの北側の長期滞在者用ホテルで暮らし始めた老婦人が、若い作家志望の青年と知り合い心を通い合わせるという内容です。

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[孤独な老婦人の前に現れた澄んだまなざしの青年を演じたのはルパート・フレンド。キーラ・ナイトリーのボーイフレンドだそうです。(C)2005 MAYQUEENPRODUCTIONS, LLCAll Rights Reserved]

それぞれに孤独を抱えた二人が偶然に出会い、お互いの心の支えとなり、老婦人は過ぎ去った若い日々を追想して人生を締めくくり、若者は新しい未来を見出していく。こんな展開は現実にはあり得ないけれど、それでも、もし人生の終わりがこんなふうだったら良いだろうな・・・。そんなほのぼのとした幻想を与えてくれる大人のためのおとぎ話です。

主演はジョーン・プロウライト(Joan Plowright)。20世紀のイギリス演劇界の大御所ローレンス・オリヴィエの(Laurence Olivier)の三人目の妻です。映画の中で老婦人サラが亡くなった夫を思い出すシーンを見ると、ついつい女優ジョーン・プロウライトが今は亡き夫オリヴィエを思い出しているように見えてしまいます。

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[一人目の妻、ジル・エズモンド。結婚生活は1930-40年]

オリヴィエの三人の妻はいずれも女優でした。この三人の配偶者の変遷を見ると、オリヴィエの個人史だけではなく、20世紀のイギリスの演劇史が見えてきます。一人目の妻は俳優一家に生まれたジル・エズモンド。ノエル・カワードなど古き良き時代のイギリス演劇のスター女優でした。ミドル・クラスの紳士淑女のための上品なお芝居の時代です。

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[二人目の妻、ヴィヴィアン・リー。結婚生活は1940-60年]

二人目の妻は銀幕の大スター、ヴィヴィアン・リー。第二次世界大戦の波乱の時代、ともに配偶者を持つ二人の激しい恋の果てのスキャンダラスな結婚。オリヴィエの自伝は虚実入り混じった、自己演出の色が濃いものですが、精神的に不安定なヴィヴィアン・リーとの結婚生活がいかに心身を消耗させるものだったかを、生々しく吐露しています。酒と浮気とののしり合いの日々―。

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[三人目の妻、ジョーン・プロウライト.。結婚生活は1961年から1989年オリヴィエが亡くなるまで続きました]

戦後、イギリス演劇も変革の時代を迎えます。舞台の上で若者が、生々しい言葉で不満を吐き散らす、いわゆる「怒れる若者たち」の時代の到来です。その新しい潮流の端緒となった作品『怒りを込めて振り返れ』を観に行ったオリヴィエは、若者たちの鋭い視線を浴び、彼らが打破しようとしている伝統の象徴がほかならぬ自分であることに気づきます。そのイギリス演劇の新しいムーブメントを起こしていた若者たちの中にいた若い女優がジョーン・プロウライトでした。

三度目の結婚でようやく安定した家庭を得たオリヴィエは、ナショナル・シアターの設立など、イギリス演劇界で精力的に活躍し続けます。数々の女性たちと浮名を流し、バイ・セクシャルでもあったとも言われるオリヴィエですが、プロウライトは女優の仕事と家庭とをうまく両立させ、オリヴィエをたくましく支え続けました。

老いの孤独を恐れず毅然と生きようとする『クレアモントホテル』の主人公サラの姿に、破天荒な夫を持ちながらしっかりとした足取りで生きてきた女優ジョーン・プロウライトの半生が重ね合なってくる。そんな映画でした。

オリヴィエと妻たちの写真はいずれもhttp://www.classicmoviefavorites.com/olivier/より

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コメント

熊谷です。先日は失礼しました。
何という偶然か、昨日、私の家内が神保町で「クレアモントホテル」を見てきたそうです。こちらの方は、老婦人の生き方には賛同できなかったようで、「ああいう後ろ向きの老後を過ごすんなら、さっさと死にたいな」などと、それじゃあ自分が年老いたときに同じ事をもう一度言えるかな? と思われるような感想を述べておりました。
 私は残念ながら見る時間がないまま上映期間が終わってしまいそうなので、DVDかなんかでもし出ることがあったらそのときに見てみたいと思います。

 家内は昨日は学校だったのですが、まあそれをさぼって見に行ったわけで、私が別に責める意図ではなしに「子どもを保育園に預けて、映画を見に行けるんだから幸せだよな」と言ったら、何をどう行き違ったのか「自分の時間を好きに使って何が悪い」と逆ギレされてしまい、それ以来今朝に至るまで一言も口をきかない状態になってしまいました・・・ これから岩波ホールの前を通る度に、このことを思い出しそうです (^^;

 せっかくのすてきな映画評のコメントにふさわしくない文章を失礼いたしました。

くまさん、コメントありがとうございます。

あらら、それはお気の毒。

子育てや介護にかかわっていると、常にギリギリまでがんばることを自分に要求しがちになるので、ほかの人の言動に過剰に反応してしまうことがよくあるようです。逆に、「よくやっていてくれるから、たまには休んだら」と言われると、すごくうれしくなります。

男の人はその点「鈍感力」があっていいよね~、とうめぞうを見ていていつも思います。「なんでこいつはこんなに鈍感なんだ?」と苛立つこともありますが、最終的には一緒に過敏になられるよりも、鈍感なままいてもらうほうがありがたいです。くまさんも「鈍感力」を磨いてくださいね。

 鈍感力というご指摘ありがとうございました。
 おそらく自分が鈍感なせいで、これがどんな感覚なのかまだ実感がわきませんが、「力」になるように磨きます。

「実感がわかない」というのが、「鈍感力」です。
今晩の奥様のご機嫌はいかがかしら? あまり気にせずニコニコ優しくしてあげる、これこそ鈍感力の発揮しどころ!

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