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2011年1月 8日 (土)

ドイツ映画「白いリボン」

うめぞうです。
まつこの週末帰省がとりあえず中断。夫婦で過ごせる時間が増えたことが実感できるようになった。その間、三年余、とくに不満や不便を感じていたわけではないが、こうなってみると、やはり慌しい生活だったらしいと改めて気がついた。これがデータ上ではっきりと裏付けられるのは、二人で見た映画の数だ。昨年一年間に二人で見に行った映画は思い出せるかぎりでトルストイの「終着駅」わずか一本。そこで今年はまた二人で月2本くらいを目標に映画館に足を運ぶことにした。
今年の第一弾は、ドイツ映画「白いリボン」。うめぞうにとって、ドイツ生まれのプロテスタンティズムは仕事の上でも、成育歴の上でも、なかなか無視しえないものがある。19世紀から20世紀半ばまで、プロテスタントの牧師館というのは、ドイツ教養市民層の重要な供給源だった。ニーチェやディルタイをはじめ、ベンやヘッセ、そういえばドイツのメルケル首相も牧師の子供だ(あの服装を見てガッテン、ガッテンする人もいるかもしれないが、まあそれは偏見というものだろう)。
英米仏は市民革命や独立戦争を経て近代化を始めたので、身分社会からの解放の主役は、進歩的貴族を除けば産業ブルジョアジーだった。大学はもともと聖職者の養成機関だったから大学出の知識人といえば聖職者でなければ官僚、教師、将校、裁判官、医師といった職業に就く。だから現実社会を実際に動かす政治や経済への影響力は限定的だった。ところがドイツは日本と同様、市民革命を経ずに官僚主導で上からの近代化を推進した。だから大学出のエリートは、英米仏よりも幅をきかせることになる。たしかにフランスにも超エリート養成機関はあるが、もともとはナポレオンの実学志向に端を発するもので、聖職者養成とは一線を画している。ところがドイツの大学はあくまで聖職者向けのギリシャ、ラテン語教育を継承しながら、それを支配層への登竜門にした。日本の旧制高校と帝国大学にも似た傾向があるが、これがエリート層の現実感覚の希薄さにつながっている。
フリッツ・リンガーという人が1810-99までの各国の人名事典にどれくらい大学知識人が含まれるかを調べてみた結果、イギリス20%、フランス16%、アメリカ15%にくらべて、ドイツは45%と群を抜いて高かったという。1860年代のドイツの大学生の出身家庭は42%が先に挙げたようなエリート職の子弟で、商工業者はわずか23%だったという調査もある。
こうした国家官僚、聖職者、将校に代表されるドイツ教養市民層を内面的に支えたのは、やはりプロテスタント倫理、禁欲、勤勉、ナショナリズム。それだけならまだしも、利益追求や肉体的快楽への侮蔑、性の抑圧、そしてその禁を破ったものに対する執拗な処罰、幼少時からの罪意識の植えつけ、内面的反省への強制。そこから当然のこととして狂信と自虐と偽善と性にまつわるノイローゼが生じてくる。「ドイツ人は、いつの時代に、私が子供であったころ以上に陰気で、不安げで、不満げで、卑屈であっただろうか」とニーチェは書いている。ナチズムへの予感をはらんだドイツ的病根について、興味や関心がある人には、ぜひ勧めたい映画だ。ドイツを支えた一側面が非常にリアルかつ丁寧に描かれている。

最後に一言。もし映画を観終わった後、まつこのように「なんか暗くて、陰気で、よくわからない映画だったわねえ」と言える人は、ごくフツーで、幸せな人かもしれない。

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コメント

 去年ご自宅にお邪魔した熊谷です。
 うめぞうさんの映画評を(他の文章もいつもそうですが)興味深く拝読しました。 
 そして、最後の2行に思わず声を出して笑い、ほっとしました。
 「元旦パジャマ会議」の最後のうめぞうさんのコメントにもやっぱり笑いました。
 いろいろと難しいことが多い中、こういう感覚が人を前向きにし、健全にすることを改めて認識させられました。ありがとうございます。
 遅ればせながら今年もよろしくお願いします。

 家内も、小1の長男までブログをやるようになって、ブログを持ってないのが私だけになってしまったので、先日開設しました。まだ記事が一つしかありませんが、お時間があったらちょっと見てください。
 http://kuma-padre.blog.so-net.ne.jp/archive/20110124
です。

熊谷さん
コメントをありがとうございます。
うめぞうブログには、コメントがこないのがフツーなので、たまにコメントがあると、わが家のビッグニュースになります。
さっきも、まつこがスカイプ経由で知らせてくれました。
お時間があるときに、またいつでも遊びに来てください。
新ブログの今後の展開を楽しみにしています。

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