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2010年1月25日 (月)

冬に読む怖い話

まつこです。

年末にロンドンの本屋で安売りしていたペーパー・バックを数冊買いました。その1冊ポール・トーディ(Paul Torday)のThe Girl on the Landingを読みました。電車の中で読む何か軽い小説を、と思って選んだ小説です。

Photo[怖い話が苦手な私がうっかり選んでしまった本]

「裕福ではあるけれど、退屈な夫との単調な結婚生活。ところがある日を境に夫は快活に変貌し、妻は初めて夫を愛し始める。だがその幸せは過去の秘密によって脅かされる・・・」裏表紙にこんな説明書きがありました。中年夫婦の愛憎の話かと思って読み始めたら、とても怖い話でした。よく見たら裏表紙にも小さい字で「スリラー」と書いてありました。

私は日ごろ威張っている割に、ものすごく怖がりなので、スリラーとか怪談はまず読みません。子供の頃、ディズニーの絵のついた『眠れる森の美女』の朗読レコードをクリスマスにもらったのですが、そこに登場する魔女が怖くて途中をとばしてハッピー・エンドの部分だけを繰り返し聞いていたというくらい、気が弱いのです。

ところがこのThe Girl on the Landingは「怖い・・・けど・・・やめられない・・・」と読み切ってしまいました。精神疾患を持つ夫の中には恐ろしい別人格が存在し、それが次第に現れてくるという筋書きです。その筋書き自体にはそれほど新奇性はないのですが、正常な現実と妄想の中を行き来する夫の視点で描かれている部分と、謎を追い求めて徐々に夫の心の暗部に足を踏み入れていく妻の視点で描かれている部分が複雑に交錯して、何が正常で何が異常なのかを判断する座標軸がだんだん不確かに感じられるような書かれ方がされています。夫の無表情、夫の笑顔、その背後に潜む心理的な暗闇。その暗部に読者までが引き込まれていくような感じです。

特定の精神疾患やその治療について、偏見を生じさせてしまいそうな記述もあり、そのあたりにやや難あり、という気はしましたが、物語作りや語り口はとても巧みです。驚いたことに1946年生まれの作者トーディは、2007年60歳で作家デビューを果たしたのだそうです。(デビュー作『イエメンで鮭釣りを』 は和訳もあります。)

日本では怪談は夏の風物詩の一つのようにとらえられていますが、イギリスではディケンズの『クリスマス・キャロル』など冬の幽霊譚なども多いようです。このThe Girl on the Landingも、季節が秋から冬に変わるとだんだん怖くなり、冬のスコットランドの冷え冷えとした景色の中で恐怖の頂点がやってきます。寒い冬にぞーっとした恐怖を味わいたい方にお勧めの一冊です。

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コメント

まつこさま

「怖いけどやめられない」本、ありますよね。映像だと「怖すぎて途中放棄」という場合が多々ありますが、本だとなぜか読んでしまうという。とはいえ、「恐怖・幽霊モノ」に分類されているものは最初から敬遠していますが。

そう言えば、ホラーが苦手な私が高校生のころ最初に読み通した英語の原書、なぜかStephen King の Carrie だった。。。「ひー、怖すぎて読めないっ!」と、目をそらしたくなりながらも、先へ先へとなぜか手がページを繰ってしまう、という。恐るべき書き手だと思ったものです。

ショウガネコさん、コメントありがとうございます。

「辛いけどやめられない」とちょっと似たところありますよね。私は他の人がマイルドで物足りないというカレーでも、ハフハフと喘ぎながら、鼻の頭に汗かいて食べる方です。それが一口食べ始めると、これがなかなかやめられない。

映像の怖いのはぜんぜんダメ。映画のTitus Andronicusは映画館まで行って入らずに帰って来ました。Ralph Fiennesのファンなのに、Red Dragonだけは見てません。Carrieは予告編だけでも逃げ出しそう・・・。

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