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2009年7月10日 (金)

ハイヒール効果

まつこです。

来日したイギリスのプロペラという劇団の公演を見に行きました。男の役者だけで『夏の夜の夢』と『ヴェニスの商人』を上演しました。『夏の夜の夢』はマッチョで汗臭い体育会系学園祭みたいな雰囲気。『ヴェニスの商人』は監獄の中に設定されていて、閉塞された空間内での差別や暴力を描いています。その『ヴェニスの商人』で印象的に使われていた小道具がありました。ハイヒールです。

Photo [これは私のハイヒール。比較的履きやすいほうの一足です]

バサーニオという借金まみれの男が、金、銀、鉛の3つの箱から正しい箱を選び出し、超お金持ちのポーシャをパートナーとして得るという場面。もともとバサーニオを意中の人としていたポーシャは、バサーニオが正しい箱を選んだ瞬間、喜んで持てるものすべてを愛する男に捧げると宣言します。

「私のものはあなたのもの、この身も、この邸宅も、召使たちもすべてあなたのもの。」今回の公演で、ポーシャはこの全面服従宣言を、ハイヒールを片方ずつゆっくりと脱ぎ棄てて、腰をかがめて低い姿勢になり、下から上目づかいでバサーニオを見上げるように語ったのです。

これまでフリンジつきのショールを体に巻きつけ、10センチくらいのハイヒールをはいていたドラッグクィーン風だったポーシャが、そのショールとハイヒールを捨てたとたん、地味でさえない年増のゲイになってしまいました。へりくだった態度で、愛情と財産を捧げられたバサーニオは思わずひいてしまいます。こんなグロテスクな相手を自分はこれから愛さなければならないのか、という困惑が思わず顔に出てしまう男・・・。

バサーニオの自分への求婚は財産目当て、本当に愛し合うゲイの恋人は別にいることを察知し、ポーシャは知恵の限りを使ってその恋人から愛する男を奪い取ります。ライバルと競うのではなく、恋敵の命をすくい恩を着せることが恋の勝負に勝つ最善の方法です。この私が絶体絶命の危機を救ってあげたのよ。この大団円は私の手柄よ。あなたは今日からは私のものよ。

このハッピー・エンディングで、ふたたびポーシャはあの10センチヒールを履いていました。堂々たる態度で夫を見下ろしながら、高らかに勝利宣言するポーシャ。これで一生バサーニオがポーシャに頭が上がらないことは明白です。

うーん、やっぱりハイヒールは女の自信の表れなんですね。年取って足の筋力が落ちるのか、だんだんハイヒールが辛くなってきていたのですが、ここはもう少しがんばって履き続けようと、シェイクスピア劇を眺めながら改めて思うまつこでした。

そういえば厚底のウェッジ・ヒールで身長を10センチほど高くすると、私はうめぞうとほぼ同じ背になります。肩を並べいつもと違う位置で目があったとき、うめぞうは「あげぞこ女」とちょっぴり悔しそうに言っていました。ただし年は年です。ぽっくりみたいな靴を履いて、骨粗鬆症でぽっくり骨折などということにならないように、気をつけないと。

注:今回のプロペラ講演のプログラムに友人のwombyさんが文章を載せています。野田秀樹氏のダジャレ満載の文章の英訳も彼の仕事。超絶的翻訳能力を発揮した英訳です。おみごと!

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コメント

へぇぇぇ。おもしろいですねぇ。
それは劇中でも、ポーシャはオカマ(ゲイ?)という設定なんですか??
私は大学で法律の勉強をしたのですが、なんでもいいから民法の問題を作ってきなさい、と言われて「お腹の肉を担保にお金を借りました」というような問題を作ったら「そもそも公序良俗違反で契約は無効です」とダメ出しを食らいました。
法律ってロマンがないですね(笑)

絵莉さん、コメントありがとうございます。

もともとの戯曲ではポーシャは正真正銘の女なんですが、今回の上演は男の役者だけだったので、マッチョな男同士のカップルとおかま風の三角関係みたいな感じでした。

余分な「お腹の肉」ってお金を出してでも、切り取ってもらいたい部分ですよ・・・。

上官殿 お褒めの言葉を家宝に、これからも精進して参りまする。

それにしても、おお、神は細部に宿る! ハイヒールに着目する、というのはわたしにはなかった見方で、目から鱗が落ちました。いつもは「女性の視点から・・・」というものの言い方をしないのですが、たぶん、これにはそういう風に言ってよいですよね。

ハイヒールをきれいに履きこなすために発達した、女性のふくらはぎの腓腹筋とヒラメ筋(あわせて下腿三頭筋というそうです)は、権力への意志と直結しているんですね。こんど人前で舞台での女性の見せ方について話す機会があるのですが(英国の日本人婦人会がお客さんです)、そのお話、使わせていただいていいでしょうか。お願いします。

そういえばヒールの高いミュールを履き、背中を丸めてヨタヨタ歩きしている女子学生が勤め先の大学でも多かった記憶があります。足首をいつ何時ひねるか分からないと、見ている方が心配になりました。それで余計なお世話ですけど「歩き方に注意しないと身体に悪いよ」とか言っていたんですね。でも今度から、「ちゃんと下腿三頭筋を鍛えるように」と言います。「ハイヒールは権力への意志だ。見ている方が心配になる歩き方をしては意味がない。踏まれたら本当に痛いだろうなという歩き方をしてこそ意味がある」と。なんとなくブルーノ・シュルツの靴フェチみたいになっちゃいますけど・・・。

wombyさん、コメントありがとうございます。

こんなネタでよければどうぞ使ってください。イギリスの日本人婦人会って、コンサバっぽいところという先入観があります。駐英大使夫人がどこの女子大出身かで、勢力バランスが変化するとか・・・。任務追行ののち、無事帰還されることを祈っております。

最近の若い子は(とまた年寄りの愚痴ですが)、確かに歩き方がよたよたしていますね。ミュール履いている女の子だけではなく、男の子も背中丸めて、足ひきずってヘナヘナ歩いています。歩く速度もだらだら遅く、通勤途中、邪魔で蹴飛ばしそうになります。「もっとしゃんとして歩け!」と叫びたい。コンサバどころか、私はこのまま右翼のおばさんになってしまうのじゃないかと不安です。

プロペラはヘナヘナとは対極のガテン系ですね。10センチヒールの負担を一切感じさせない身のこなしに、「おー、鍛えているなあ」と敬服しました。やっぱ、男はガテン系よね!

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