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2009年2月28日 (土)

女子の文学

まつこです。

今週は一人で新潟に来ました。電話で母が「編み物の仕方がよくわからなくなった」と言っていたので、この数日間に認知症が進んでしまったのかと懸念しながら来たのですが、それほど大きな変化はなくホッとしました。認知症というのは見ているとPCのハードディスクの不調とちょっと似ています。少し動きが重くなったり、急にフリーズしたりする古いPCも、余分なソフトを削除したり、いらないファイル消したりすると、またしばらく使い続けられます。編み物も、毛糸のつなぎ目みたいたなところを一緒にやってあげたら、そのあとせっせと編み始めました。セーフモードでできるだけそっとがんばってもらいます。

こうして毎週、新潟と東京を行ったり来たりしていますが、その行き帰りの新幹線の中ではよく雑誌や軽い読み物を読みます。今週は、新幹線の中でSophie Kinsella(ソフィー・キンセラ)のRemember Me? (『リメンバー・ミー?』)を読み終えました。いわゆる"Chick Lit"(チック・リット)と呼ばれる若い女性向けの通俗小説の一冊です。実はまつこはChick Lit愛読者なのです。

Photo[表紙のデザインがカラフルで派手なのもChick Litの特徴です]

"Chick"はもともと「ひよこ」という意味ですが、そこから「かわいこちゃん」というような、若干、俗な言い方で若い女性を指す意味で用いられるようになりました。"Lit"は「文学」"literature"を短くした言葉です。『ブリジッド・ジョーンズの日記』や『セックス・アンド・ザ・シティ』あたりから始まり、この10年ほどに、若い女性を主人公とし、若い女性を読者とする、若い女性によって書かれた物語が次々と出版され、どんどんと売れるという現象がおきました。

若い女性ですから当然、恋愛が大きなテーマとなります。しかし従来のハーレクィン・ロマンスなどと違うのは、登場する女性たちが、職業を持って経済的に自立しており、多くの場合、マスメディアや金融業界などで働く都市生活者であるということです。必然的に彼女たちの恋愛模様とともに、きわめて活発な消費生活が描かれます。

今回のキンセラのRemember Me?も主人公は室内装飾からビルシステムまで扱う会社の一部門を率いる女性ボスです。ハンサムな夫はロンドンで高級ロフトの取引をするデベロッパー。ところが交通事故にあってしまい、記憶を失ってしまいます。さえない安月給の独身OLだった3年前までのことは思い出せるのだけれど、キャリアの階段を急速に駆け上がり、グラビアそのままのような高級フラットで結婚生活をするようになった経緯をまったく忘れてしまったという設定です。

なぜワードローブにアルマーニのスーツがずらりと並んでいるのか、なぜ免許を持っていなかったはずなのにベンツのコンパティブルを持っているのか、なぜルイ・ヴィトンのバッグやダイアモンドがたくさんあるのか、なぜディオールの化粧品がぎっしりと引出しにはいっているのか。全然思い出せない・・・という具合に、商標名が次々に出てきます。ちょっと商品カタログを見るような楽しみがあるのがChick Litの一つの特徴です。

もうひとつ従来のロマンスとChick Litの違いは、フェミニズムの波に洗われた後の女性たちの持つセルフ・アイロニーや批判精神がほどよく取り入れられていることでしょう。甘いロマンティックなハッピーエンドが必ず用意されていたロマンスに比べ、Chick Litの場合は男性への幻滅やキャリア志向の挫折などが、しばしばモチーフとして利用されます。

Remember Me?でも不動産バブルに沸くロンドンを舞台として、金に糸目をつけずに高級マンションを売買することへの疑問や、経営合理化をはかるために不採算部門を閉鎖していともあっさりと人員整理をする企業への批判が盛り込まれています。作者のキンセラはもともとファイナンシャル・ジャーナリストだったので、世界同時不況の気配を察知し、恋愛小説の中にもその危機感を取り込んだということなのでしょう。

現代の女子は恋愛もし、キャリアも積み、消費文化を楽しみながら、社会経済について批判精神も持っているというわけです。そんな働く現代女子の生態を描いたChick Litが、バブル経済が世界的にはじけた今、これからどんなトレンドに向かうのか、ちょっと関心を抱いています。

追記:キンセラの作品には"shopaholic"(お買いもの中毒)のレベッカを主人公にしたシリーズがあります。こちらは邦訳もあるようです。シリーズ第1作The Secret Dreamworld of a Shopaholicは映画化もされました。『お買いもの中毒な私』として5月に日本でも公開予定とのことです。

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